今週の一枚 アンダーソン・パーク『オックスナード』

今週の一枚 アンダーソン・パーク『オックスナード』 - 『オックスナード』ジャケット『オックスナード』ジャケット

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『オックスナード』
12月7日(金)発売


『マリブ』以来、2年10ヶ月ぶり3作目。その間にノレッジとのユニット、ノーウォーリーズの大傑作アルバム『Yes Lawd!』も出ており、そこからカウントすれば2年ぶり4作目ということになる。ケンドリック・ラマーとの共演曲“ティンツ”を始め、ドクター・ドレースヌープ・ドッグ、Qティップ、J.コール、プシャ・Tなどが名を連ねている。


アンダーソン・パークといえば昨年のフジロック(と単独公演)での、フリー・ナショナルズとのライブの印象が強い。グルーヴィなバンド演奏をバックにラップのみならずドラムまでプレイするアンダーソンのエネルギッシュなパフォーマンスは、己の声と肉体を使って黒人音楽の伝統を継承し現代のポップ・ミュージックの最前線に接続していこうとする強い意志を感じた。その意味で彼の音楽は決して前世代と切り離されたものではなく、その血を濃厚に受け継いでいる。

そして本作も、そうしたライブ・パフォーマンスの延長線上にあるものだ。70〜80年代のソウル/R&Bやファンクをベースに置きながらも、決してレトロスペクティブにはならない今の音響感覚やシンプルでしなやかでオーガニックなビート、リアルなラップのフローを巧みに配置することで、現代のポップ・ミュージックとして見事に機能させている。前作にあったサイケデリックだったりカオティックだったりするアレンジは整理され、いっそうポップで風通しのいいサウンドになっている。ライブで観たらさらにいいだろうと思わせるのは、アンダーソンの現在の志向がライブにあることを示している。つまりライブで演奏することを前提としてアレンジにバッファを多く残しているということであり、ここからライブの現場を通して育てていくもの、育てられるものが多くあって、これが完成形というより伸びしろを残していると感じる。そうしたあり方はロックやファンクのバンドでは珍しくないものの、ヒップホップとしてはサウンド面での実験や冒険が乏しく、ある意味では保守的という解釈も成り立つだろう。

そこはおそらく賛否両論だと思うが、アンダーソンは、そんなせせこましい縄張り意識やカテゴライズ、固定概念を乗り越えたところで、過去から現在へ、現在から未来へと連なっていく瑞々しい音楽のエネルギーを表現したかったはずだ。僕はといえば、この32歳の男の体内に継承されてきたアフロ・アメリカン文化(とコリアン文化)の伝統の血の熱さに感動しているのである。何度も繰り返して聴きたい、膨らみと奥行きのある傑作。(小野島大)
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