今週の一枚 ニール・ヤング 『ピース・トレイル』
2016.12.26 18:40
ニール・ヤング
『ピース・トレイル』
12月14日(水)発売
遺伝子操作食品の表示義務に強硬に反対しているモンサント社への抗議やシェブロン、スターバックスへの異議を表明した『モンサント・イヤーズ』から1年、今回は石油パイプラインへの抗議をテーマとしたのがニール・ヤングの新作『ピース・トレイル』。
ニールが特に問題にしているのはスタンディングロック保護地区付近を貫通するダコタ・アクセス・パイプラインの建設計画で、このパイプラインが保護地区の湖の下を貫通する予定になっていること。万が一漏洩事故などが起きた場合、湖を中心とする先住民の生活圏・文化圏がすべて破壊されるとして反対運動が起こされていて、ニールはこの運動に支援を表明するだけでなく、こうした作品という形で今回呼応することになったのだ。
もともとニールは原油や石油のパイプライン敷設にはかねてから反対してきていて、特にカナダからアメリカの穀倉地帯を通過させようとする計画などに取り返しのつかない環境破壊を招きかねないとしてこれ以前にも楽曲化もしてきている。これに今回は先住民問題も合わさっていて、ヨーロッパ人が北アメリカ大陸に移住し始めて以来、500年間蹂躙され続けてきたことをなぜ誰も問題にしないのかと問いかける今回の“Indian Givers”などにそのメッセージが託されている。特にニールがこの先住民問題について強い反感を覚えているのは、比較的先住民対策が手厚いカナダ出身ということも関係しているのかもしれない。
というわけで、前作『モンサント・イヤーズ』に引き続き、体制や企業の倫理、ひいては歴史そのものを問う内容の作品になっているが、前作はウィリー・ネルソンの息子ルーカス率いるプロミス・オブ・ザ・リアルを従えたサウンドになっていたのに対して、今回はヴェテラン・ドラマーのジム・ケルトナー、そしてルーカス・ウィルソンの弟マイカとのコラボレーターとして知られるベーシスト、ポール・ブシュネルが大抜擢されている。ポールの起用についてはマイカにテープを聴かされて、いたく気に入ったとのことだが、実際、とてもメロディアスで特徴的なベース演奏が、ある種先住民が抱える怨嗟をエレジーとして伝える今作の内容には欠くべからざる要素となっている。そして、ジムの起用は、まさにアメリカ先住民の音色を強調したいからで、今回のパフォーマンスにおいて先住民音楽のドラムの表情や響きをよく知っていて反映できるかどうかが重要なことだったが、ジムはそんなドラム・スタイルをこのアルバムで貫いている。また、内容的に糾弾というより、哀歌に近いものなので、今作はこの顔触れによるトリオに限ったパフォーマンスになっていて、前作のエネルギッシュな内容とは打って変わった、哀しみやブルースを切々と訴える素晴らしい内容になっている。
その硬派な内容ながら『モンサント・イヤーズ』は海外では意外と評価が高かったが、今作については前作ほど芳しくない。おそらく『モンサント・イヤーズ』のサウンドが限りなくクレイジー・ホースに近く、今回は地味目だからということなのだろうが、しかし、パフォーマンスとしてはニール節がいかんなく発揮されたものになっていて、ニールが好きならこれは好きにならざるをえないものになっている。オープナーの“Peace Trail”などは文句なしのニール的ミディアム・ナンバーで、抑え目なディスト―ション・ギター・リフはまさにニールそのものでたまらないし、こうした問題にやるせなさを感じてどうしても活動に組み込んでしまう自分の体質を歌う“Can’t Stop Workin’”なども実にニールらしい自分の現在を吐露する名曲になっている。(高見展)