今週の一枚 ポール・マッカートニー『ピュア・マッカートニー~オール・タイム・ベスト』

今週の一枚 ポール・マッカートニー『ピュア・マッカートニー~オール・タイム・ベスト』

ポール・マッカートニー
『ピュア・マッカートニー~オール・タイム・ベスト』
6月10日(金)発売

ポール・マッカートニーとしては4枚目のコンピレーションとなる本作『ピュア・マッカートニー~オール・タイム・ベスト』だが、聴いてみてなんとなく意外な感じを受ける人も多いかもしれない。ひょっとしたら、ポールが好きなら好きなほど、きっとそういう印象を受けるのかもしれない。というのも、「オール・タイム・ベスト」といわれているわりには、結構、収録されていないお気に入りの曲も多かったりするし、意外な曲が登場したりもするからだ。今回は4枚組のデラックス盤と特に2枚組の通常盤にとリリースされるが、特に通常盤についてはそういう印象もあるかもしれない。

基本的にポールのベスト盤についてはまだウイングスが活動中だった1978年にリリースされた『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』、87年時点でのキャリア・ベスト『オール・ザ・ベスト』、そして01年にリリースされ、84年までのソロとウィングスのベストとなった『夢の翼~ヒッツ&ヒストリー~』とあって、基本的にポールの過去のヒット曲が聴きたいということなら、これのどれかを聴けばそれで事足りるともいえなくもない。しかし、ポールにはもちろん88年以降の活動もずっとあるわけで、そうした楽曲も収録しつつ、なおかつポールの昔の楽曲も再録しつつ、いろんな時期のポールの曲にランダムに触れつつ、しかし、ふとポール自身の歩みや歴史を思わせるような内容として編集されているのが今回のコンピレーションなのだ。

そもそも、ポールのキャリアといっても、46年もあり、そのうちウイングスは約10年、ソロは36年、『オール・タイム・ベスト』以降の、まだこれまでベスト盤やコンピ盤の対象となっていないソロ活動だけでも28年もあるわけで、これをまとめあげること自体が容易なことではない。シングル曲を軸に編集するというのもひとつのやり方かもしれないけれども、そういう通り一遍なやり方はせずに「ベスト盤」というよりは、「コンピ盤」としての工夫を凝らしてみたのが、今回の『ピュア・マッカートニー』なのだ。特にこれまでのコンピにはなかったカラーとなっているのがポールの覆面エレクロ・ユニット、ザ・ファイアーマンとの" Sing The Changes"のほか、近年のソロ・アルバムからの楽曲も収録されているところだが、たとえば、『タッグ・オブ・ウォー』の"Wanderlust"が登場するところなどはかなり意表をつく展開なのだ。アルバムの中でもわりと目立たない曲だからなのだが、ポールが抜群のヴォーカルを聴かせていて、実はこの曲はビートルズのプロデューサーとして活躍し、この『タッグ・オブ・ウォー』もプロデュースしたジョージ・マーティンがポールの曲として最も気に入っていたという曲なのだ。

たとえば、今度のコンピを制作するにあたっての方針についてポールはとにかく楽しいものにしようと思ったと説明しているけれども、この"Wanderlust"が収録されているのは、あの世でジョージ・マーティンが楽しめる作品にするためなのだ。同じように『メモリー・オールモスト・フル』からの"Dance Tonight"は前妻ヘザーとの娘で当時3歳だったベアトリスがマンドリンを弾くとやたらと踊りだすということに着目して書いた曲で、これもまたヘザーやベアトリスにとって楽しい思い出となっている曲であるはずなのだ。もちろん、現在の妻ナンシーの楽しめる曲もあれば、最初の妻リンダとその子供たちも楽しめる曲もあり、ポールならでは全方位を楽しませる内容になっているのだ。特にポールほどのキャリアを誇るとややもすると、こうしたコンピはマンネリになりがちだが、こうした切り口を持ってくるところはさすがだと思う。ただ、欲をいえば『フラワーズ・イン・ザ・ダート』からもなにか聴きたかったなあ。(高見展)
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