今週の一枚 レディー・ガガ『ジョアン』

今週の一枚 レディー・ガガ『ジョアン』

レディー・ガガ
『ジョアン』
10月21日(金)発売

レディー・ガガのニュー・アルバム『ジョアン』からの先行シングル“Perfect Illusion”のミュージック・ビデオが公開された際、日本のTVワイドショーでそれは「ガガ様の最新ファッション、今度はセクシーな半ケツのホットパンツ!」なるキャッチーな見出しと共に報じられていた。このワイドショーの切り口は半分正しくて、半分間違っている。化粧っ気のない顔にひっつめた髪、ホットパンツにタンクトップ姿で砂を蹴り上げながら踊るというか暴れまくるこのPVのガガは、「完璧な幻想」に翻弄された末に白目を剥いて倒れるラストに至るまでたしかにニュー・ルックだ。でも、ガガがここで示したのは新たなファッションやスタイルではない。それは「ファッションやスタイルこそがレディー・ガガとイコールである」という以前の自分の方程式を捨て去る意志そのものだったからだ。

同様に、レディー・ガガにとって3年ぶりのニュー・アルバムとなるこの『ジョアン』は、彼女が「人間化」したアルバムだという批評も半分正しく、半分間違っている。たしかに彼女が究極の「ポップ化」、「アイコン化」に突き進んだ前作『アートポップ』と本作はサウンド面で対照を成す作品であるのは間違いないし、「あなたは完璧な幻想だった」と歌われる“Perfect Illusion”の「あなた」とは、かつてのガガ自身を暗示していると捉えることも可能だ。ちなみにアルバム・タイトルの「ジョアン」は亡き叔母の名前であり、ガガ自身のミドルネームでもある。

ジョシュ・オムならではのざらりと乾いたヘヴィ・ギターとハスキーなガガの歌声のコンビネーションが圧倒的に新しい“Diamond Heart”で幕を開けるこの『ジョアン』は、その後も過去数年のガガのイメージを次々と覆していくナンバーが続く。未だかつてないフォーク・ソングの“Joanne”、ベックが参加してローファイなヒップホップのアレンジを施し、ガガのNYの青春時代を想起させる“Dancin’ in Circles”。マーク・ロンソンが主導権を握った最新エレクトロ・ナンバーでありながらも、そのスタイリッシュな表層を圧倒し、押しつぶす勢いで覆い被さってくる“Perfect Illusion”での野太い地声の熱唱や、フローレンス・アンド・ザ・マシーンのフローレンス・ウェルチとの『テルマ&ルイーズ』みたいな友情すら感じさせる“Hey Girl”の競演も最高だ。

そんなキラ星のごときコラボレーターが名を連ねている本作の中でも、特にキーパーソンと呼ぶべきゲストがヒラリー・リンジーだろう。テイラー・スウィフトの“Fearless”を手掛けたことで知られる彼女は、元々はカントリー畑の王道クラシックなシンガー・ソングライター。しかしひとたび他のアーティストの楽曲に参加すると、クラシック/モダンの絶妙のバランス感覚を発揮する希有なアーティストで、テイラーの“Shake It Off”を彷彿させるパーカッシヴな“A-YO”や、本作の核を成す曲と言っても過言ではないピアノ・バラッド“Million Reasons”といった楽曲の「洗いざらしなのに、くたびれていない」質感は、リンジーの存在なくしては生まれなかったはずだ。

最初にこの『ジョアン』はガガが「人間化」した作品だという捉え方は半分間違っていると書いたのは、本作は等身大の人間化の際に得てして陥りがちな他者を排除した内省、パーソナルな逃避の作品ではまったくないからだ。ベックやロンソン、リンジーら多彩な才能とコラボしまくっている点にも、むしろ自分を開いていこうとするガガの意志を感じるし、そもそもガガが人間的でなかった瞬間なんて、過去に一度もない。そして同様に、ガガがポップでなかったことも一度もないし、この『ジョアン』だって過去のガガのアルバムのように、むちゃくちゃポップなアルバムでもあるのだ。

レディー・ガガにとってのポップがユニークだったのは、それが彼女の「素」であり、最大限リアルな自分自身の表現だった点だ。たとえば戦略的にペルソナを入れ替え続けてきたタフでクレバーなマドンナと比べるとガガが良くも悪くもナイーヴだと感じるのは、ガガのポップネスは常に彼女自身と共に揺れ動いていたからだし、どんなルックスだろうが、ファッションだろうが、イケてようがイケてなかろうが、誰だってポップという「特別なもの」になれるんだという切実な想いが、彼女とファンを繋ぎ、鼓舞してきた哲学でもある。そういう意味で、この『ジョアン』の一聴して脱ポップな佇まいは、むしろ可能な限りポップの領域を広げた、彼女の途切れることのない哲学と闘いの道程にあるものなのだ。(粉川しの)
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