今週の一枚 グッド・シャーロット『ユース・オーソリティー』

今週の一枚 グッド・シャーロット『ユース・オーソリティー』

グッド・シャーロット
『ユース・オーソリティー』
9月7日(水)発売

実に6年ぶりのアルバムとなるグッド・シャーロットの新作『ユース・オーソリティー』に続けて、サム41の5年ぶりアルバム『13 Voices』&グリーン・デイの4年ぶりアルバム『レボリューション・レディオ』がともに10月7日にリリースされることが相次いで発表されたのはご存知の通りだ。

上記の3組が同じ年にフルアルバムを出したことが、かつて一度だけあった。世界的なポップパンクの熱狂を象徴する名盤――グリーン・デイ『アメリカン・イディオット』、サム 41『チャック』、グッド・シャーロット『クロニクル・オヴ・ライフ・アンド・デス』の3作がほんのひと月足らずの間に立て続けに投下された2004年のことだ。あれから実に12年、ムーブメントとしてのポップパンクシーンが雲散霧消し、各バンドの底力が問われている2016年に、3バンドのリリースの軌道が再び交錯するのは興味深い。

この3組はまた、2010年代に入って相次いで活動休止→再開というプロセスを経ている点でも共通している。が、休止中の2015年に晴れてロックの殿堂入りを果たしたグリーン・デイと、2014年にデリック・ウィブリーのアルコール依存症による入院&療養を余儀なくされたサム 41とでは、その意味合いは異なる。

そしてグッド・シャーロット。一度完成させた音源を破棄して、ドン・ギルモアとともに作り上げた2010年の『カーディオロジー』とその後のツアーを最後に、バンドは2011年から活動休止期間に突入。『ロッキング・オン』最新号に掲載されているインタビューで、ジョエル・マッデンはその背景を以下の通り語ってくれた。

「たぶん、自分たちが何者なのかを突き詰めて考える時間が必要だった、ってことなんじゃないかな。俺たちはずーっとグッド・シャーロットをやってきたからね。16の頃から始めて、活動休止した時には31歳になってたわけだから。普通の暮らしをして、バンドを離れたところで自分を見つめ直す時間がほしいと思ったんだよ。2012年に入る手前まで『カーディオロジー』のツアーをやってたんだけど、そこでメンバーみんなで膝を突き合わせて話をして、『もう何も言いたいことも残っていない』『ライブも続けられない』って話になってね。その頃の俺たちはもう、完全にカネのためだけにステージに立ってる感じだった。それって何て言うか……自分たちの気持ちに正直じゃないって思って。リアルな感覚を見つけたい、それには今の状態からは抜け出さないといけないって感じた。正直で、真っ当な決断だったはずだよ」

ベンジー&ジョエル兄弟のサイドプロジェクト「ザ・マッデン・ブラザーズ」なども展開した活動休止期間を経て、1st&2ndを手掛けた盟友ジョン・フェルドマンを迎えて制作された6thアルバム『ユース・オーソリティー』。

バンド黎明期の情熱と人生の手触りを重ね合わせて「今」に轟かせる“Life Changes”。パンクロックのみならずアメリカンロックの歴史そのものを俯瞰し呑み込んだようなタフネスと包容力に満ちた“Makeshift Love”。ビッフィ・クライロのサイモンをフィーチャーした“Reason To Stay”、スリーピング・ウィズ・サイレンズのケリンを迎えての“Keep Swingin’”などを経て、2nd『ヤング・アンド・ホープレス』の“Movin' On”の焦燥感からのモードチェンジを如実に物語る、最終曲“Moving On”へ――。

ヘヴィなサウンドもアコースティックな響きも血肉化し、すべてが壮大なスケール感とキャッチーな訴求力を備えた、グッド・シャーロット高純度結晶と呼ぶべき快盤に仕上がっている。

自主レーベルに活動拠点を移し、自らの原点と真っ向から向き合いながら作り上げた今作『ユース・オーソリティー』。だが、グッド・シャーロットをこのアルバムへと突き動かした最大の要因は、「音楽への純粋無垢な愛情」よりも――いや、その純粋さに忠実であるがゆえに生まれる「バンドの最高の終わり方」への想いそのものだった。前述のインタビューで、ジョエルは次のように話していた。

「俺にとっては、始め方と同じくらい終わり方も大事なんだ。何となくフェードアウトするんじゃなくて、きちんと終わらせたかった。それも、自分の手でね。だから、最後を飾るアルバムは特別なものになるよ。終わりを意識してから最初のアルバムになる『ユース・オーソリティー』も、すごくいいもの、特別なレコードになった。たぶんあと1枚、特別なアルバムができれば、それで十分じゃないのかな。そこから先、もっと活動を続けるかどうかは、今は何とも言えない。だから特別なものにしたいと心から思ってる。それが今の俺の気持ちなんだ」

ちなみに。今年の「PUNKSPRING」で完全復活をアピールしてみせたサム41、「SUMMER SONIC 2012」でヘッドライナー来日を果たしたグリーン・デイに対し、グッド・シャーロットの直近来日=『グッド・モーニング・リバイバル』ツアー(2007年)からは実に9年が経過している(同年のサマソニはスケジュールの関係で出演キャンセル。2011年4月の「PUNKSPRING」にヘッドライナーとして出演する予定だったが、同年3月に発生した東日本大震災の影響によりフェス自体が開催中止となっている)。

「若さは未来だし、未来を決めるのは若い子たちなんだ」(ジョエル)という信念を『ユース・オーソリティー』(若者の権威)のタイトルに託し、2016年という時代に撃ち放つグッド・シャーロット。

レーベルの思惑にもマーケティングの戦略にも囚われない、完全な自由を手に入れた彼らが「最高の終章」に到達するまでに、我々はその姿をあと何回観ることができるだろうか?……と、6年ぶりのニューアルバムに触れた今も胸が騒いで仕方がない。(高橋智樹)
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