今週の1枚 メアリー・J.ブライジ『ザ・ロンドン・セッションズ』

今週の1枚 メアリー・J.ブライジ『ザ・ロンドン・セッションズ』

メアリー・J.ブライジ
『ザ・ロンドン・セッションズ』
12月3日発売

アルバムの名前が示すとおり、ニューヨークを中心としたアメリカのアーバン・ミュージック界にかれこれ20年以上君臨してきたメアリー・J・ブライジがロンドンで制作した最新作。アデルやエイミー・ワインハウスが大ブレイクしてからも、エメリー・サンデーやサム・スミスなど自前のスーパースターを生み続けているUKソウルが現在もっとも勢いのあるシーンであることは一目瞭然だし、そこの先鋭的なサウンド・クリエーターたちを起用してアルバムの制作に取り組むのはもはや当然なことにも思えてしまうのだが、この作品がすごいのはまったく“上から目線”を感じさせないこと。メアリーはロンドンの音楽シーンに感じる最大の魅力は、現在のアメリカではあまり感じられなくなった“自由”だと語っているのだが、だからこそ彼女は地元ニューヨークにクリエーターたちを招集するのではなく(やろうと思えば簡単にできただろう)、自ら海を渡り、ある程度の月日をかけてロンドンの空気とカルチャーをしっかりと吸収し、その“自由”を自分のものにしたのだ。その上で、それこそサム・スミスやエミリー・サンデー、さらにはディスクロージャーやノウティー・ボーイといった最前線に立っているUKのアーティストとコラボレーションしているわけだが、その結果、長年貫き続けた“メアリー節”を妥協することなく、これまでのレパートリーになかったガレージやハウスなどのダンス・ミュージックを自分のものとして謳歌できている。UKサイドももちろんメアリー・J・ブライジ、および彼女が象徴する本家のR&B/ソウル/ヒップホップに対するリスペクトは絶大なものであり、双方のそんな思いが如実に結晶していることがうかがえるという意味でも感動的な作品であるのだ。
 にしても、“クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル”とも呼ばれるほどのキャリアとステータスを築き上げたメアリー・J・ブライジのクリエイティヴィティに対するあまりにも謙虚な姿勢には感心させられる。そもそも、このコラボレーションのキッカケとなったのはディスクロージャーの“F・フォー・ユー”を気に入ったメアリーがローレンス兄弟にカヴァーしたいと申し込んだこと。結局、カヴァーではなく、最高のコラボレーション・ソングとして生まれ変わったわけだが、オリジナルでヴォーカルを担う弟のハワード・ローレンスは仕上がった曲に自分のパートがちゃんと残っていることに驚いたそうだ。そんなハワードは、メアリーがパフ・ダディと組んだ『ホワッツ・ザ・411?』でセンセーショナルなデビューを飾った当時(1992)、まだ生まれてもいなかったことも考えると、今回の『ザ・ロンドン・セッションズ』の内容はさらに興味深く聴ける。(内田亮)
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