今週の一枚 ブロッサムズ 『ブロッサムズ』
2017.01.16 17:45
ブロッサムズ
『ブロッサムズ』
1月20日(金)発売
昨年8月にブロッサムズのデビュー・アルバムが本国UKでリリースされた際、私は「“インディ・サウンドの総力戦“の趣を持つこのアルバムが、メジャー・フィールド、ポップ・フィールドで十分戦えることを証明した時、UKギター・ロックの2016年は一段階ステップアップすることになるだろう」と当時の「今週の一枚」で書いた。そしてあれから半年弱が経ち2016年を振り返ってみた時、たしかに本作が昨年のUKギター・ロックにおいて大きな意味を持つターニング・ポイントの一作となったことは間違いない。全英2週連続1位の快挙と共に、R&B、ヒップホップ、エレクトロ・ミュージックが大半を占めたかの国の年間ベストのクリティック・ポールでも大健闘と、まさにセールス&評価の両面において2016年のUKギター・ロック最高のデビュー・アルバムとなったのがこの『ブロッサムズ』だからだ。
ちなみに昨年の本国リリース時に書いた『ブロッサムズ』の「今週の一枚」はこちら。
http://ro69.jp/blog/ro69plus/146469
こういう彼らの前提、実績を踏まえて聴くべきなのが、今回ようやくリリースされる日本盤である。今月末の単独来日を前に再度しつこく、そして新たな切り口から本作が画期的である理由を挙げるとしたら、それはこの『ブロッサムズ』にはおよそ考えうる最高のインディ・ロック、インディ・ポップのエッセンスが総覧されているという点。しかも、それらが混じり合って唯一無二のブロッサムズ・サウンドを形成しているというよりも、分裂した個性としてそれぞれが各曲の中で主張し合っているのがユニークで、アルバム・トータルとしての定義や軸が置きにくい構造になっている点。その結果、サウンド自体は非常にクラシックで普遍的なのに、UKギター・ロックのアルバムの作り方、そしてバンドのキャリアの積み方の面で意図せず2010年代ならではの「身軽さ」のようなものを証明してしまっている点だ。
デビュー当時はマンチェスター・グルーヴの王道の継承者のような楽曲を立て続けに発表していたブロッサムズだが、その後はネオアコ勢やザ・スミスとの親和性の高いアルチザンで繊細なアルペジオやメロディ・センスが際立つ楽曲も増え、さらには“At Most A Kiss”のシングル・リリースを号令に一気にシンセのレイヤーも今様なエレクトロ・ポップへと寄せてきて、見事に大ブレイク。『ブロッサムズ』は、約2年の間にそうして変遷していったサウンドのバラエティをひとつに要約するのではなく、彼らの変化していく過程そのものをフレッシュな魅力として活写したアルバムなのだ。
昨年のリリース作だとキャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンの『ザ・ライド』もそうだったが、商業的に大きな成功を収めたUKギター・バンドの作品のひとつの傾向として、「徹底した楽曲主義」というものが顕著に見えてきたのが2016年だった。ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』以降のコンセプト・ワークとしてのアルバム観が長らくロック・アルバムの暗黙の了解となっていたところに、いきなり『プリーズ・プリーズ・ミー』の時代まで一気に先祖返りしたかのようなその現象は、実に8曲(!)ものシングル・ナンバーが収録されているこの『ブロッサムズ』にも当てはまるものだ。一曲一曲を至上のポップ・ソングにするために一魂入魂する、その敢えて近視眼的なソングライティングによって楽曲の粒が見事に揃い、アルバムとはあくまでその入れ物として存在する。そんなブロッサムズやキャットフィッシュのマナーが、結果的にストリーミング世代の若いリスナーの望むポップ・ミュージックとマッチしたという、偶然の幸運、時代性も彼らの成功を後押ししている。
今後、ブロッサムズが『サージェント・ペパーズ~』のようにアルバムらしいアルバムを作る時期がくるかもしれない。そしてそのための彼らのアイディア、素質、可能性は既に本作で十二分に示されているのだ。(粉川しの)