今週の一枚 スヌープ・ドッグ『クールエイド』

今週の一枚 スヌープ・ドッグ『クールエイド』

スヌープ・ドッグ
『クールエイド』
8月24日(水)発売

ここ数年ファンクやレゲエに没頭し、MCからは離れ気味だったスヌープ・ドッグの久々のラップ・アルバム。レゲエやファンク・プロジェクトについてはスヌープ・ライオンやDJスヌーパデリックなどと名乗ってもいたが、前作のファンク・アルバム『ブッシュ』については普通にスヌープ・ドッグ名義になっていて、もう単純に歌ものの方が好きになってしまったのかとも思わせていたが、ようやくこうやって本格的なラップ・アルバムを引っ提げて帰って来てくれてとても嬉しい。

一体なにがスヌープをMCから離れさせていたのか、その事情についてはよくわからないが、ここまで執拗にファンクやレゲエのグルーヴにこだわっていたということは、ここ数年のダンス・ミュージック、R&B、ヒップホップの総EDM化へのアレルギー反応だったのかもしれない。いずれにしても、本作はそんな鬱憤を爆発させつつ、昨今のトレンドなど一切無視して自分の原点を打ち出すものになっていて、もろG-ファンクなウェストサイド・ヒップホップを鳴らしながら、スヌープの天才的でいなせなフロウを聴かせまくるものになっている。

ファン・サービスも満点でその先鞭となるのがオープナーとなる“Legend”。ヒップホップではお決まりの俺様節だが、これが実はドレイクの『イフ・ユーアー・リーディング・ディス・イッツ・トゥー・レイト』のオープナーとなっている“Legend”に対応したトラックなのだ。ヒップホップでは当世第一人者ともいわれ、「俺が死んだら俺は伝説だ」とうそぶくドレイクに対して笑わせてくれるなよという内容になっていて、「俺は死んでもそれでも生きる伝説だから」と一枚上をいってみせている。さらに90年代ギャングスタ・ラップ全盛期にトゥパックらと一世を風靡した自分についてこれみよがしに語りつつ、「その頃おまえなんか7歳くらいじゃん」とドレイクをあしらってみせるところに極悪MCぶりの健在さをみせつけてくれていて、のっけからとても楽しいのだ。

というわけで、2曲目からの“Ten Toes Down”ほか、“Don’t Stop”、“Let Me See EmUp”、“Point Seen Money Gone”、“Oh Na Na”、“Affiliated”など西海岸G-ファンク全開のトラックもあれば、イギー・アゼリアの“Fancy”のリフをまるパクリして自身のかつてのギャング構成員としての心意気を綴る“Super Crip”など遊び心に満ちた曲もあるし、ファースト・シングルとなった“Kush Ups”など刺激的なトラックも多い。特にいなせフロウ全開となるスウィズ・ビーツとのコラボレーション曲“Light It Up”と“SidePiece”はアルバムのひとつの聴きどころとなっている。

また、個人的には2006年に他界した名DJのJ・ディラのトラックとクレジットされている“My Carz”でのゲイリー・ニューマンの“Cars”のサンプリング使いがぶっとびのかっこよさで、あらためてスヌープの懐の深さに驚いた。タイトル曲となっている“Coolaid Man”はゆったりして徹底的にヒップホップなサウンドの渋いトラックで、最もメッセージに満ちた曲。画一的な今のヒップホップへの苦言となっているが、コーラスでは「女子たちはレモネード(ビヨンセ)が大好きで、俺は街で人気のジュース売り」と遊びに満ちた自慢ボラでまとめるところがさすが。(高見展)
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