今週の一枚 リンキン・パーク 『ワン・モア・ライト・ライヴ』

今週の一枚 リンキン・パーク 『ワン・モア・ライト・ライヴ』

リンキン・パーク
『ワン・モア・ライト・ライヴ』
12月15日発売


今年7月にチェスター・ベニントンの突然の訃報が世界を駆け巡った時に誰もが驚いたのは、時代を突き動かしてきた稀代のボーカリストを失った衝撃からだけではない。『ワン・モア・ライト』という最新アルバムを携えて、リンキン・パークはまさにワールドツアーの真っ最中。チェスター急逝のつい2週間前:7月6日にヨーロッパツアーを終え、その翌週27日からは北米ツアーがスタート、というスケジュールの途上にあったからだ。

その、結果的にチェスター在りし日の最後のツアーとなってしまったヨーロッパツアーから、6月20日・オランダ公演を中心にポーランド/ベルリン/ロンドン/バーミンガムの各公演からのライブテイクをコンパイルしたのが、今回リリースされたライブ・アルバム『ワン・モア・ライト・ライヴ』だ。


“New Divide”“ In the End”“Numb”といった代表曲群もさることながら、今作の全16曲の中でひときわ際立っているのは、ヨーロッパツアーの多くの公演でオープニングを飾っている“Talking to Myself”をはじめ“Battle Symphony”“Nobody Can Save Me”など『ワン・モア・ライト』の楽曲の存在感だ。
そして何より、リリース当時マイク・シノダが「最もポップで最もリスキーなアルバム」と表現していた『ワン・モア・ライト』の、性急さやラウド感を排した楽曲群が、これまでのリンキン・アンセムと1mmの齟齬もない壮大な音楽のパースを描き出していることだ。

さらに言えば、悠久のタイム感を備えた『ワン・モア・ライト』の楽曲が、チルアウト・ナンバーとしてではなく、これまで以上のスケール感と訴求力を備えた「攻め」のフォーマットである――ということが、スタジオアルバムのみならずライブ音源という形でも実証された、決定的な一枚でもある。
“Burn It Down”の痺れるようなヘヴィサウンドも、ピアノのみの静謐なアレンジで披露されている“Crawling”も、そんな『ワン・モア・ライト』の地平線の一部であるかのような感覚が、この音像からは確かに立ち昇ってくる。


《チェスターは比類なき情熱家で、並みはずれて寛容で、繊細で、楽観的で、おかしくて、優しかった。その声で苦痛を浄化し、誠実さを芸術に、熱い思いを絆に変えてきた。これらの曲に生命を吹き込もうとしたあいつの献身は、堂々たる実を結んだんだ。今回のツアーに参加してくれたみんな、ありがとう。参加できなかったみんなには、俺たち6人にとってこれらのショウがいかに魔法がかっていたか、このアルバムで少しでも伝えられますように》

今作のリリースに際しバンドが発表した上記コメントの言葉からも、チェスターへのとめどないリスペクトが伝わってくる。本来であれば11月に予定されていた来日公演で我々も心行くまで体感できたはずの『ワン・モア・ライト』の真価に、ひとりでも多くの人に触れてほしいと願わずにいられない。(高橋智樹)
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