今週の一枚 ナッシング・バット・シーヴス『ナッシング・バット・シーヴス』

今週の一枚 ナッシング・バット・シーヴス『ナッシング・バット・シーヴス』

ナッシング・バット・シーヴス
『ナッシング・バット・シーヴス』
10月21日(水)発売

ナッシング・バット・シーヴスは、時代を切り拓く新世代とか、未だかつて無い発明の音楽とか、そういう類いの「新しさ」でもって注目を集めている新人バンドではない。ただひたすらに、圧倒的に正しいロックンロールの精度でもって、時代性やジャンルのクリシェをねじ伏せていく、王道を突き進むことを宿命づけられた新人バンドである。

今年のサマーソニックでの初来日ステージが、そもそも破格だった。デビュー・アルバムのリリース前のド新人バンドにとって、2万人収容可能なマウンテン・ステージへの出演は本来プレッシャーにしかならないはずだが、彼らのパフォーマンスはむしろ、自分たちのロックンロールにはその広大な空間が不可欠なのだと言わんばかりの必然が満ちたものだった。そしてそんなサマソニで垣間見せた彼らのダイナミックなロックンロールが凝縮されているのが、デビュー・アルバム『ナッシング・バット・シーヴス』だ。

日本のタワーレコード限定でリリースされたデビューEPの段階で既に硬軟・熱冷の幅広いレンジを誇っていた楽曲群だが、それはアルバムとなってさらに劇的な広がりを増している。驚くほどポップで、鳴った瞬間にアンセムたりえる“Ban All The Music”や“Wake Up Call”、圧倒的な演奏力でブルーズのグルーヴとガチンコ勝負する“Itch”や“Trip Switch”、ニュー・ウェイヴ/ポスト・パンク調の“Honey Whiskey”やプログレ的構築性を兼ね備えた“Graveyard Whistle”を聴くと彼らがレディオヘッドからアルト・ジェイへと連なる理知的な才能の持ち主であることがわかるし、“Hanging”のようなナンバーを聴けば彼らがレッド・ツェッペリンを目指す剛の者たちであることがわかる。

しかも彼らのこの楽曲の振れ幅は、アルバムのコンセプトとしてあらゆるタイプのナンバーを意図的に書いた結果というよりも、ナッシング・バット・シーヴスの目指すロックンロールにはそりゃ当然これぐらいのレンジは生じるだろう、必要なのだろうという必然が感じられるのが面白い。

彼らは今でも普通のUK新人と比べるとかなりハイレヴェルな演奏力を持っているが、このデビュー・アルバムを聴くと、これからさらに巧くなっていくだろうと確信させられる。ヘタウマなんていう逃げ道を一切封じ、巧くなることがただひとつの正義であると、これまた必然であると感じさせるロックンロール。ナッシング・バット・シーヴスは、そういうシンプルかつ途方も無い王道を行功とするバンドなのだ。

そして何と言っても特筆すべきはヴォーカル、コナー・メイソンの声だ。ナッシング・バット・シーヴスのナンバーに新人バンドらしからぬ風格、あたかも十年、二十年聴き継がれたクラシック・ソングのような味わいを与えているのが彼のヴォーカルだ。サマソニのステージではレッド・ツェッペリンの“移民の歌”を120%ガチに歌い上げて「この人、ジェフ・バックリィやトム・ヨークのみならず、ロバート・プラントでもあったのか!」と驚愕してしまったのだが、楽曲の緩急によって様々に表情を変えながらも、ここまで記名性の高い声の持ち主はUKバンドでは本当に久しぶりだと思う。

ロイヤル・ブラッドやウルフ・アリス、キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンといったオーセンティックなロック・バンドたちが次々に成功を収め、エレクトロ、R&B一辺倒だったUKシーンの潮目が変わりつつある昨今、ナッシング・バット・シーヴスの登場は、そんな時代のまたしても「必然」なのかもしれない。(粉川しの)
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