今週の一枚 マドンナ『レベル・ハート』

今週の一枚  マドンナ『レベル・ハート』

マドンナ
『レベル・ハート』
3月11日発売


以前に”Living For Love"1曲でレビューを載せた際はアルバム『レベル・ハート』から6曲しか聴けないという状態で、「早く全体像を捉えないと仕方ない」と書いたが、こうしてアルバム全体を初めて通して聴いてみて気づかさせられることが二つある。

まずは、リークしてしまったことにマドンナが激怒したのも実に無理はないと思うほど、本作がアルバム・アーティストたろうとする強力な意思に貫かれているということ。7人の異なるプロデューサーと組み、様々な場所で書かれレコーディングされたにも拘らず、だ。もはやどこで何を録ったかなど聴き手にとってはどうでもよくなり、世界のどこかを具体的に思い描かせることがなく、「ぎりぎりこの世で録られた」としか思えないほど、ある意味で現実性を超越している。

そう、もうひとつは、世間がああだこうだと言う以上に、マドンナというアーティストはソングライティングを追求し、それが本作で証明されているということだ。国境や性別や既存の概念といった、人々を縛りつけるあらゆるものから開放された、真にユニバーサルなソングライティングを、である。

なかでもこのアルバムでそのエッジの両端となっているのが、”Joan Of Arc"と"Holy Water"だ。失われた愛を歌うことさえトレンドになってしまった感もあるポップ・シーンへの静かな戒めのようにも聴こえる、「それでも私は愛のために闘う」というミドル・テンポの前者。「Yeezus」つまりジーザスに見たてるかのようにカニエ・ウェストをプロデューサーに据え、宗教的にもモラル的にもあまりにもコントラヴァーシャルなリリックの後者。常に物議を醸しながら、それでいて真実を突いてきたマドンナの究極の姿だと思う。

また”Iconic"や”Body Shop" など、ダンスフロアを掌握してきただけでなく、オルタナティヴなスタイルにまで敏感であり続けてきたマドンナの半歩先を行く嗅覚と、世の中が求めるジャスト感が合致したトラックも素晴らしい。
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