今週の一枚 ピンク・フロイド『永遠(TOWA)』

今週の一枚 ピンク・フロイド『永遠(TOWA)』

ピンク・フロイド
『永遠(TOWA)』
11月19日発売


「ピンク・フロイド20年振りのニュー・アルバム。」
「亡きリック・ライトへのトリビュート。」
「そしてフロイド最終章。」

と資料に大きく書いてある。

「時空を超え、神話復活」

とも書いてある。

そしてアルバム・タイトルは

『永遠(TOWA)/ THE ENDLESS RIVER』

である。

もう、これがすべてである。

メンバーの内、2人が亡くなっているのである。
メインのソングライターの1人が脱退しているのである。
そんでもって裁判とかいろいろあったのである。
でもトータルで2億5千万枚ものアルバムを売って、50年間もどうにか続いたのである。
そのピンク・フロイドの最後のアルバムなのだ。

20年前の前作『対(TSUI)』で収録されなかった音源をリ・アレンジ、再構成して、オーバーダブを加えて作られたアルバムである。
つまり、生前のリック・ライトの演奏が収められている。
いやむしろリック・ライトのテイクをメインにして作られている。
だから「リック・ライトへのトリビュート」という位置付けにしたのだろう。

もはや神話の中に存在し、もはや20年以上の過去の作品の中に自らのすべてを表現し尽くした偉大なるバンドが、
それでも最後のフィナーレをなんとか1枚のアルバムにして、「リック・ライトへのトリビュート」というサブ・テーマを添えて、人類にラスト・メッセージを届けようというのである。
その事実だけで、偉大なことではないか。
本国イギリスのアマゾンで予約販売数が史上最高を記録したことがそれを物語っている。

プロデューサー陣の中にユース(キリング・ジョーク)がいることによって、ベース音の強調やアンビエントな音処理がなされていて、サウンド的にはややモダンである。
アルバムの構成も、フロイドが得意とするロジカルな流れではなくて、曲調の成り行きによって雰囲気重視で繋いでいくような、ややニューエイジ的な流れ。
これもユースの意図なのかもしれない。

楽曲、アレンジ的には、アルバム『狂気』以降の定番イディオムが集大成されている感じで、
嬉しい半面、「やはりもう20年前の時点ですでに『プログレッシヴ・ロック』としての創造性は枯渇してたんだな」と寂しい思いも抱く。
でもそれは、ピンク・フロイドの作品があまりにも長い年月の間あまりにも多くの人に聴き続けられて、ピンク・フロイドが創造してきた定番イディオムに我々が慣れ親しみすぎてしまっているせいでもある。
普通のバンドなら、自分達が作ったスタイルをこれぐらいなぞることはむしろ当たり前の事だろう。
それほどに偉大なバンドだったのだ。

残念ながらピンク・フロイドの代表作、といえるような作品ではない。
本人達ももともとそんなことは思っていないだろう。
だが、偉大なバンドとしての宿命を引き受け、こうして最終章を作り上げて最後を飾ったことで、
ピンク・フロイドのこれまでの作品の輝きや意味は変わるだろう。
プログレは、どんなに複雑であろうが間延びしている部分があろうと、
アルバムのラスト曲まで聴くことに意味がある。
それと同じだと思う。
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