今週の一枚 エミネム 『リバイバル』

今週の一枚 エミネム 『リバイバル』

エミネム
『リバイバル』
12月15日発売


12月15日にリリースされたエミネムの4年ぶりの新作『リバイバル』だが、エミネムの爆発的なパフォーマンスとぎりぎりのユーモアが交錯する本来の魅力とダイナミックさが満載の素晴らしい内容になっている。

リード・シングルとなった“Walk on Water”を聴いた時には、2010年の大ヒット曲となった“Love The Way You Lie ft. Rihanna”を共作したスカイラー・グレイとのタッグを復活させ、さらにビヨンセにコーラスを歌わせるなどかなり手堅さが目立ち、「俺は水の上を歩くけれども俺はキリストじゃない / 俺は水の上を歩くけれどもそれは水面が凍った時だけだ」という落ちもかなり乱暴だと思えなくもなかった。


しかし、この曲をアルバムのオープナーとして聴くことになって、ここに込められたメッセージがかなり切実なものだとわかった。要するにこの曲は、果たして今のシーンで自分の表現は有効なのかという問いかけなのだ。

メジャー・デビューした1999年から2005年まで間違いなくヒップホップと音楽シーン全体に衝撃をもたらし続けた自分は確かに水の上を歩くような奇跡も起こしたかもしれないが、今の自分の表現はどう届くのかというのがこのアルバムの問いかけなのだ。

その返答となるのがそれに続く“Believe”で、冒頭は超スローでストイックなビートで始まる。そのビートに合わせて間延びした間隔でハイハット音を入れているため、エミネムなりのトラップ・ビートへのアプローチだと指摘する意見も多い。
そして、確かにこの曲は現在のシーンに対するエミネムなりの態度を表明するものだが、しかし、このハイハットはあてつけで入れているだけのものだ。

さらにここ数作のエミネムは異様なほどまでに言葉数を詰め込んでくるラップ芸を叩きつけてきていて、それが「くどいしフロウも何もあったものではない」と批判されてきたことへの返答にこれはなっている。
この曲の異常にスローな展開はあてつけとして、おまえらがよく聴き取れるようにゆっくり喋ってやるからというすさまじいディスでしかないのだ。

そしてヴァースでは自分が辛酸をなめながら成り上がって行った思いをぶちまけ、エミネムが終わったと言っていた輩に対して後で吠え面かくなよと凄む内容になっている。それだけでなく、ラップが進むとやはりどうしても言葉数が多くなり、そうなるとパフォーマンスそのものがうねり始めてフロウを生み出すところが圧巻なのだ。

つまり、かなり弱気な一面を見せた“Walk on Water”に続いて、ここでエミネムは一見今のシーンを気にしているように見せかけて実はどうでもいいと捨て置き、俺様節をぶちかましてみせるのである。そして、なんで俺を信じないんだというコーラスに雪崩れ込んでいく展開となるのだが、ここにくるとキャッチーなメロディも導入され、完全に楽曲はエミネム節へと盛り上がっていく。

そして、ここでエミネムが叫ぶ「なんで俺を信じなかったんだ」というフレーズは、ラッパーとしての自分を見限った人たちに向けられた言葉であるはずなのだが、しかし、その表現のあまりの激しさは、かつて楽曲の中で前妻キムに向けて発した数々の敵意や不信にむしろ近いものだと思わせるもので、そこがすごいのだ。

ある意味で、こうしたドメスティックな問題を歌詞に持ち出してくるのはエミネムが2005年に活動休止に入る直前に“When I’m Gone”で封印したはずのものだ。
エミネムはそれまで母親や妻や娘をさんざん楽曲に登場させては、特に母親や妻との関係がまともに機能しないことへの怒りを爆発させ、これがエミネムの最も衝撃的な、表現としてのパワーになってきていた。

しかし、この“When I’m Gone”でエミネムは娘ヘイリーから家族を自分の芸の食い物にしているだけだとなじられたことを紹介し、それ以来、事実上、そうしたアプローチを封印してきたといってもいい。


2009年に『リラプス』で復帰してからのエミネムの試みは実はかつての爆発的なエモーションをどう引き出していくかというさまざまな試みだったといってもいい。だから、『リラプス』などでは連続猟奇殺人犯に成り代わってみせる試みなどもしていたのだ。

最終的に前作『ザ・マーシャル・マザーズLP2』ではよりパーソナルな作風に回帰していくというアプローチに落ち着いたわけだが、今回のアルバムの画期的なところは、かつて自分の怒りや表現の源泉となっていた、まともな関係を築けないというジレンマそのものをインスピレーションとして見つめ直しているところなのだ。

つまり、かつて貧困の中で母親とまともな関係を築けなかったこと、その後は妻キムとの関係もまともなものにならなかったこと、こうした関係不全が常に怒りとしてエミネムを表現に駆り立てていたもので、それはたとえ、母親やキムとの関係を現在は修復したとしても、変わらないことなのだ。

だから、その怒りだけを抽出して、この“Believe”の文脈にぶちこむというのがこの曲で試みられていることで、それがこのパフォーマンスに壮絶なパワーとリアリティをもたらしているのだ。

基本的にこの自分の怒りの源泉を見つめ直したことで一気に表現が解放されたというのがこのアルバムの内容で、最もダイナミックな形でエミネムの表現のヤバさが炸裂しているのが“Untouchable”だ。

これはアメリカの警察権力による黒人市民の殺害事件などを批判する内容の曲だが、エミネムならではのアプローチになっていて、この曲でエミネムはその黒人市民殺しをする白人警官に成り代わってその心境を吐露するというショッキングな内容になっているのだ。


ここまでやるかというぎりぎりのブラック・ユーモア、そして怒りの源泉にアクセスし直したことでラップにおける敵意が尋常でなくリアルなものになっている。この曲はかつてのエミネムの爆発力を取り戻しているだけでなく、かつてのN.W.A.の衝撃を彷彿とさせるものにさえなっている。

しかし、エミネムは自身の怒りに耽溺しているわけではなく、たとえば“Bad Husband”ではキムとの関係がうまくいかなかった日々を振り返って謝罪ともいえるメッセージを込めてみせている。

つまり、実際の関係と、自分の表現の源泉となってきた関係不全とが完全に客観化されて、区別されるようになったのだ。そして、自分の表現はかつてのあの怒りに踏み込んでいかないと自分らしいものにはならないということを見極めたのがこのアルバムの内容なのだ。

アルバムには当然、トランプをディスしまくる“Like Home”もあれば、エド・シーランが不貞を行った青年の心境について書いた“River”を、さらにその彼女がエミネムと浮気して中絶までするというとてつもない報復劇にまで仕立てあげるラップを披露するなど、あのどこまでも危なっかしくスリルに満ちているエミネムの立ち回りが満載の作品となっている。


かつては自分のコントロールの利かない怒りに振り回され、ツアー自体を「アンガー・マネジメント・ツアー」とも名付けたことのあるエミネムだが、アーティストとしては最良の形のアンガー・マネジメントをついに手に入れたことを明らかにする、2009年以来では間違いなく最高傑作になっている。(高見展)


最新作までの道のりはこちらから。

【考察】エミネムはアメリカ社会の中で何と闘い続けてきたのか? 最新作『リバイバル』までの道のり
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