今週の一枚 U2『イノセンス+エクスペリエンス ライヴ・イン・パリ』

今週の一枚 U2『イノセンス+エクスペリエンス ライヴ・イン・パリ』

U2
『イノセンス+エクスペリエンス ライヴ・イン・パリ』
7月29日(金)発売

いわずと知れたことかもしれないが、U2のライブというのは90年代以降、ロック・コンサートの在り方の先端を常に走ってきたものとなっている。それはパフォーマンスのプレゼンテーションとそのスケールにおいて常に先陣を切ってきたということで、たとえば、ライブでのセカンド・ステージというものは、U2のズーTVツアーで史上初めて打ち出されたものだ。そうした意味で、U2のツアーというのは常に最新型の発想をもたらすプレゼンテーションとして注目されてきたが、今回のこの映像作品に収録されたツアーはもう極め付けといっても間違いないものだ。

前回の360°ツアーでは巨大な全方位円形ステージを屋外ライブとして各地に持っていくことになったが、今回のこの「イノセンス+エクスペリエンス・ツアー」ではバンドは観客とのより密な距離を望み、会場クラスはアリーナにとどめることになり、その前提で考案されたのがこの作品のステージなのだ。すでに日本でもこの形式に近いライブも行われているのであまり驚かれないかもしれないが、アリーナ会場のど真ん中にステージを設置し、客席はそれをぐるりと取り囲むというものだ。少なくともU2はこの形で昨年の5月からツアーに乗り出しているので、誰よりもこの方法については先んじていたはずだ。そして、映像作品を観る限りでは特に気づくはずもないのだが、こうした会場ではスピーカー類がすべて頭上に吊るされることになったので、音をまんべんなく行きわたらせるという最も重要な課題もこれで乗り越えたことになり、おそらく今後、多くのアーティストがこのアプローチを倣っていくことになるだろう。

そうした画期的なアプローチ以上にこの映像作品には重要な記録としての性格も備わっている。というのも、これはパリ公演の映像で、昨年11月に起きたパリでの同時多発テロ事件のせいでU2は公演2日分を終えた後に、2日分が順延となり、12月に早々とパリに戻ったというのがこの公演の内容だからだ。まさにバタクラン劇場での銃乱射事件というテロへの恐怖に屈することなく、アーティストとファンがロックンロールにそれでも身を投じたというのがこのライブ映像の内実なのだ。

内容はもちろん最新作『ソングス・オブ・イノセンス』を引っ提げてのもので、もう完璧過ぎるU2ショーとなっている。前半は新作から“The Miracle (Of Joey Ramone)”、“Iris (Hold Me Close)”、“Cedarwood Road”、“Song For Someone”、“Raised By Wolves”とのっけからたたみかけるように披露するのだが、その合間に“Vertigo”、“I Will Follow”を放り込んでくるところがさすがの展開。また、ボノは冒頭近くで、ぼくたちの10代の頃の歌を聴いてくださいというようなことをいうのだが、実はほぼ新作の曲なので、自分たちのそもそものモチヴェーションを摑み直すという今回の新作のテーマを改めて確認できるステージになっている。

中盤にかけては今回のステージの最大の装置である巨大ヴィジョンと花道が連動した驚異的な仕掛けも披露されることになり、U2独自のイノヴェーションでショーアップされたライブが展開していくことになる。そしてヒット曲を駆け抜けて、最後にはバタクラン劇場でテロ襲撃を受けたイーグルス・オブ・デス・メタルが登場するという感動の展開となり、U2はさらに憎い演出をイーグルス・オブ・デス・メタルのために用意することになる。

なお、U2のツアーはレモンとか、たいがいなんかしらシンボルとなるものが必ずあるのだが、今回は映像作品のジャケットともなっている裸電球。では今回はなぜ、裸電球がステージの上方にぶら下がっているのか。これはきっと、かつて無名時代に練習に励んだリハーサル・ルームの天井からぶら下がっていた裸電球なのだなとわからせてくれる。そのことが、特に前半のバンドのパフォーマンスの素晴らしさだったと思う。(高見展)
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