今週の一枚 リアム・ギャラガー 『アズ・ユー・ワー』

今週の一枚 リアム・ギャラガー 『アズ・ユー・ワー』

リアム・ギャラガー
『アズ・ユー・ワー』
10月6日発売

リアム・ギャラガーがやりたかったことと、やるべきこと、そしてリアム・ギャラガーに求められていたこと、その3つがついに幸福な合致を見たのが彼のソロ・デビュー・アルバム『アズ・ユー・ワー』だ。本作が古典的ロックンロール・アルバムでありながら、恐ろしくクリアでモダンな輪郭を持った作品になりえたのは、自分がやるべきことを確信して一直線に邁進した、リアムの迷いなきアティチュードの賜物に他ならない。ある意味でそのアティチュードとは、「俺は俺自身でなきゃならない」(“Supersonic”)という彼の最初期の原点に立ち戻ったということなのかもしれない。そしてリアムがリアム自身であろうとした時、それは世界最高のロックンロール・シンガーとして再び立つという決意に他ならなかったはずだ。

世界最高のロックンロール・シンガーであることと、世界最高のソングライターであることはもちろん別問題だ。そして、横並びで民主的なフォーマットである「バンド」にソングライティングのイニチアシブを預けて曖昧にしたがために、シンガーとしての確信すら揺らいでしまったのがビーディ・アイ時代のリアムだった。世界最高のロックンロール・シンガーと世界最高のソングライターがたまたま同じバンドに存在する、そんなオアシスみたいな奇跡は何度も起こるものではないのだ。

Liam Gallagher - Wall Of Glass

翻って、ソロ・アーティストとしてのリアムがこうしてロックンロール・シンガーとしての確信に満ちあふれたアルバムを完成させることができたのは、リアムのために、リアムの希有の才能と声を120%生かしきることに全精力を注ぎ込む、ソングライティングの「チーム」が結成されたからだ。ぼんやりしたロックンロールという夢を追い求める共同体としてのバンドではなく、「最高のロックンロール・シンガーであるリアム・ギャラガーに相応しい最高のロックンロールを作る」という厳格な達成目標に向けて邁進するシビアなチームを選んだこと、それが本作の勝利を導いたのだと思う。

もちろん大半の楽曲はリアム自身が書いたものだ。共作曲や提供曲においても、リアムのメロディや歌詞を元に、「リアムが歌うならこうするべき」という視点から共作者が発展させていったものになっている。つまり、リアム本人をも含むチーム全員で最強最高のリアム・ギャラガーを再構築していったということだ。そんな本作のチームの要となったのがグレッグ・カースティン。カースティン、アンドリュー・ワイアット、ダン・グレック・マーグエラットの3人が本作のプロデューサーで、カースティンとワイアットは楽曲共作も行っている。また、チェリー・ゴーストのサイモン・オルドレッドと元ザ・ヴァーヴのサイモン・ジョーンズが“For What It’s Worth”でリアムと共作している。

新作『カラーズ』でこちらもカースティンとがっつりタッグを組んだベックや、エド・シーランやヒップホップ系のアーティストは言うに及ばず、シンガー・ソングライターが他アーティストと共作で作品を仕上げいく、まさに「チーム作業」を行うことはこの2010年代のしごく当然のスタンダードになっている。リアムのこの『アズ・ユー・ワー』だけが取り立てて特殊なわけではないのだ。

本作は徹頭徹尾ロックンロール・アルバムだ。「おれはスペース・ジャズなんてやらない」と兄ノエルへのあてつけのように言っていたリアムだが、まさに彼の中で30年以上不変のクラシカルなロックンロール観で統一された一作だ。エレクトロ風ロックとか、R&B風ボーカルとか、ジャズ風リズムとか、トレンドに阿って今風の音を獲得していくのではなく、クラシカルなロックンロールを今の音にする試みが全編にわたって繰り広げられている。

リアムのボーカルがでっかく響く空間を鷹揚に確保しつつも、曲の展開やコーラスやリバーブのアレンジの細部において、並々ならぬ制御と采配が効いている“Wall Of Glass”や、ストーンズ・ライクなブルース・ロックに分厚くゴージャスなブラスセクションが搭載された“You Better Run”を筆頭に、美しい流線型のクラシック・カーの埃を払い、ボディを磨きあげつつ、さりげなく最新型のエンジンと入れ替えたような、ビッグで王道でありながらタイトでモダン、2017年にリアムが歌うべきロックンロールの「今」が獲得されている。 そんなグルーヴ・チューンに加え、“Chinatown”や“Paper Crown”のように、リアムのリリカルなファルセットの魅力を引き出したメロディック・チューンも素晴らしい。

Liam Gallagher - Chinatown

カースティンたちが最高のプロダクションを成し遂げた一方で、リアムのソングライティングも驚異的な成長を遂げている。オアシス時代の彼の曲にあった、ぶっきらぼうでそっけなくも時々はっとするほど美しくエヴァーグリーンなメロディが、ここでは全面に押し出され、ポップ・ソングとして完成されている。

珠玉、という言葉がこれほどぴったりはまる佳曲もないだろう“Bold”は彼のメロディ・メイカーとしての過去最高傑作だと思うし、俺の目指すロックンロールはこれ!という自信全開のガレージ・チューン“Greedy Soul”、“For What It’s Worth”は、まるでオアシス(ノエル)に借りを返すかのようなソロとしての充実と肯定感覚に満ちた楽曲だ。そして、リアムのビートルズ愛の結晶、その結果“Champagne Supernova”にも匹敵するエピック・チューンとなった“Universal Gleam”は、オアシスとしての過去も含めたリアムの集大成として鳴っている。

世界最高のロックンロール・シンガーの復活と、瑞々しいシンガー・ソングライターの誕生、そのふたつが見事に実現した会心の一枚。8年の時を経て、ついにリアムが正しい未来へ歩き出した。過去をひとつも捨てることなく。それが何より感動的なのだ。(粉川しの)
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