レイ・デイヴィス
『アメリカーナ』
4月21日発売
※国内盤の発売は4月26日
ザ・キンクスのレイ・デイヴィスの10年ぶりとなるソロ・アルバム『アメリカーナ』。タイトルはまさにこのアルバムのテーマを言い表していて、レイのアメリカへの思いが綴られた作品となっている。
キンクスは60年代に登場したイギリスのビート・ロックのなかで、最もイギリス特有の情緒と感性を身上としたバンドだった。その一方で代表曲のひとつ"You Really Got Me"などはブルースやR&B直系のリフをどこまでもハードに圧縮してみせたサウンドで、ブリティッシュ・ロックのサウンドを最もわかりやすく体現してみせたバンドとしても知られてきた。
その特異なイギリスらしさは常にこのバンドのわかりにくさともなってきたが、キンクスはそのキャリアを通した度重なるアメリカとの関わりの中で、アメリカでも絶大な人気を誇るバンドになることに成功した。
例えば60年代中盤からはザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズらとともにアメリカの音楽シーンを制圧するブリティッシュ・インヴェイジョンの一角を担ったが、その後、ビート・ロックの退潮とともにバンドはどこまでもイギリス的なバラードを軸としたコンセプト・アルバムやロック・オペラへと向かうことになる。
しかし70年代末からバンドはアメリカで活動を立て直し、よりコンパクトでソリッドな作風を打ち出すことでセールスとライブの両面で見事に人気を復活させたのだった。
こうしたアメリカとの関わりや、実際にアメリカで生活した経験から目にしてきたアメリカへの心象を綴った作品となっていて、レイのアメリカつれづれ記といった内容になっている。
演奏はオルタナティヴ・カントリーのジェイホークスと共演、レイの楽曲も相当に完成度が高かったことから、聴きやすく抒情に満ちたものになっている。そして、カントリーやフォーク、ブルース、ロックといったそれこそ「アメリカーナ」なサウンドとともに、自分の経験なり、目撃譚なり、あるいは断想や思いなりが歌われていく。
例えばアメリカで目にするものが変化のための変化、つまり、必要性などはどこかに置き忘れてきた開発ありきの土地開発だというような社会的なコメントを綴るブルースとなった"Change For Change"もあれば、アメリカという土地が持つ不思議なインスピレーションについて歌われるカントリー・ブルース調の"The Mystery Room"などもあり、実に長い時間と経験を費やした旅行記という様相を呈している。
印象的なのは70年代のキンクスの楽曲にいかにも登場しそうなタイトルの"Rock’N’Roll Cowboys"で、レイの得意とする甘いロック・バラードに仕上がっている。そこでロック・バンドに活躍する場所も余地もないと、憂いに満ちた確信を歌い上げてみせる。
その一方で、かつて自分たちも含めたロック・バンドがアメリカで大活躍した時代を振り返るのが"The Great Highway"。ザ・トロッグスの"Wild Thing"のリフをネタにした展開がとてもダイナミックで、レイの描くイメージがどこまでも映える。
また、"The Invaders"ではブリティッシュ・インヴェイジョン期の自分たちを振り返り、なにかと異物扱いされた当時の状況について「俺たちインヴェーダー」と歌ってみせるユーモアもレイらしい。
隅から隅までレイ・デイヴィスらしいアメリカへのオマージュとなっているが、ふとキンクスの71年の『マスウェル・ヒルビリーズ』がどこか仮想のアメリカーナとなっていたことが思い出され、そこもまたとても感慨深かった。
(高見展)
今週の一枚 レイ・デイヴィス『アメリカーナ』
2017.04.21 16:30