今週の一枚 スーパーオーガニズム『スーパーオーガニズム』
2018.03.02 15:30
スーパーオーガニズム
『スーパーオーガニズム』
3月2日発売
Superorganism - Reflections On The Screen
2月初頭の初来日公演を経て、素晴らしいデビュー・アルバムを届けてくれたスーパーオーガニズム。かつて米国のハイスクールに通っていた日本人オロノ(Vo)が、ニュージーランドのバンドであるThe Eversonsのメンバーと交流を深め、スーパーオーガニズムが立ち上げられたのは2017年初頭のことだ。英国やオーストラリアや韓国出身のメンバーを含む多国籍バンドであり、「BBC Sound of 2018」にもノミネートされた。
自分たちの放つインパクトについて極めて自覚的に鳴らされ、歌われたデビュー・シングル“Something for Your M.I.N.D.”から既に、スーパーオーガニズムの音楽的なスタイルは確立されていた。それはサイケデリックなバンド・サウンドのローファイ・ポップであり、ヒップホップやハウス・ミュージックの効果的なサンプリングやグルーヴである。
ただし、その音楽的な手法が彼女たちの表現の新しさを規定しているのではない。むしろ、彼女たちは「サウンドの新しさ」という評価軸からなるべく遠いところに身を置き、活動しているようにさえ見える。ローファイ・サウンドやサンプリングは、現在の彼女たちが用いることのできる/用いたい表現手法がそれだったということにしか過ぎない。別に何だっていいのだ。
スーパーオーガニズムは、「サウンドの新しさ」というポップ・ミュージックの凝り固まった評価軸そのものに戦いを挑んでいる。その評価軸こそが古い価値観であり、より自由に解放されるべき若いスピリットの妨げになるのだと考えている。だから、楽しむべきサウンドだけを自由に鳴らすことが出来るし、率直なメッセージを伝えることが出来るのだ。彼女たちのサウンドの表面だけをなぞって「別段新しいものではないよね」と安直な評価を下そうものなら、それこそ彼女たちの思うつぼだろう。
Superorganism - Everybody Wants To Be Famous
このMVではサングラスをかけているので確認できないが、白昼夢のようなドリームポップの中心に居ながら、どこか物憂げで冷静な目つきをしているオロノの佇まいがとてもいい。《みんな有名になりたいばっかりで、恥じらいなんてものはありはしない/自分の名前を覚えて欲しいんだ》と自己愛の氾濫を鋭く抉る“Everybody Wants To Be Famous”や、《すべてのベッドルームが真っ平らになり/すべてのものが海に飲み込まれてしまうとき》という東日本大震災の恐怖と悲しみに暮れる“Nai’s March”を、等しく一大事として取り上げ、歌うことができるシンガーだ。オロノの目つきは、スーパーオーガニズムという表現集団の最も重要な部分を象徴している。
ダイナミックな越境性を具現化したグループ名が、そのまま題された見事なアルバム。しかし彼らは、個々に時代を捉える若い感受性を何より尊重している。しかも、旧来的な「ポップ」の価値観を無視することができるほど、暴力的にポップだ。今夏フジロックでのパフォーマンスも今から楽しみである。(小池宏和)