今週の一枚 スティング『ニューヨーク9番街57丁目』

今週の一枚 スティング『ニューヨーク9番街57丁目』

スティング
『ニューヨーク9番街57丁目』
11月11日(金)発売

スティングのニュー・アルバム『ニューヨーク9番街57丁目』は、2013年の『ザ・ラスト・シップ』以来3年ぶりの新作だが、それ以上に意義深いのは、本作が2003年の『セイクレッド・ラヴ』以来実に13年ぶりの「ロック・アルバム」と呼べる一枚になっていることだ。

スティングが「ロックに回帰した」作品と称するのは、ちょっとニュアンスが違うようにも感じるのだけれども、それついては後述するとして、とにかくまずはこのアッパーに畳み掛けてくる久々のスティングのロックンロールを堪能してほしいと思う。彼自身も現在の自身のモードを思いっきり堪能し、楽しんでいるようだ。アルバムのリリースに先駆けて出演したアメリカのTV番組では、ハイポジで構えたアコギをかき鳴らしながら、ザ・ポリスの“Next to You”をロカビリー調のアレンジで猛烈パワフルに演奏していたスティング。65歳にはとても見えない彼の若々しさに驚かされたのだが、『ニューヨーク9番街57丁目』のロック・サウンドが、若かりし頃を懐かしむロートル・ミュージシャンのヌルい懐古作とはほど遠い引き締まったグルーヴと切れ味、そしてモダネスを湛えた作品になっているのは、そんなスティングという人のフィジカルの驚異の現役キープ感、そして音楽家としての古びない鋭利な感性の賜物であるとつくづく思う。

一言にロック・アルバムと言っても本作はワントーンでシンプルにまとめられた作品ではない。前作『ザ・ラスト・シップ』が彼の故郷を舞台としたミュージカルのために書き下ろした特殊なアルバムだったこともあり、自叙伝的な歌詞世界と共にフォーキーでアコースティックなサウンドで美しくまとめられていたのとは対照的に、本作はロックをざっくりとしたテーマとして掲げつつも、あらゆるアプローチが試されている。

パワフルなギター・ストロークが大胆に振り下ろされるオープナーの“I Can’t Stop Thinking About You”から思いっきりロック全開だが、同時にその繊細なアルペジオやハイファイなコーラスのアレンジには、年齢と経験を重ねた現在のスティングらしい思慮が宿っている。“50,000”もまさにそういう熱と冷のコントラストの効いたナンバーだし、メロディ・メイカーとしてのスティングの才気が炸裂した“One Fine Day”や、ストーナー気味に重心後ろのグルーヴをブン回す“Petrol Head”のようなナンバーの一方には、『ソウル・ケージ』時代を彷彿させる素描的アコースティックと教会音楽のチャントを彷彿させる節回しのコンビネーションで聴かせる“Heading South On the Great North Road”のようなナンバーもある。アルバムの隅々にまで、ロックに回帰はしても、ロックとして退化はしないというスティングのプライドと知性が漲っている。

『ニューヨーク9番街57丁目』に漲るロック・サウンドの根拠としての「若さ」には、きっちりと「老練」な理由がある、その矛盾が本作の面白さであり、本作の瑞々しい響きに彼の経験と知識と技術の集積が120%生かされているという点が凄いし、これこそがスティングならではの回帰のマナーなのだと思う。

そもそもの大前提として、スティングというアーティストが回帰する場所は何もロック「だけ」ではないのだ。彼の本来のルーツはジャズであることは有名な話だし、ポリスというロック・バンド自体も、パンクの時代にそぐわないほど高度だった技術的にも、サウンドの多様性(しかもそれを100%やりきる前に解散している)的にも、便宜上ロックというフォーマットに仮住まいしていただけのとんでもないバンドだった。ソロに転じて以降に爆発した才気あふれる創造力、レゲエ、ラテン、アフロ・ミュージック、そしてクラシックと広がっていった膨大なサウンド・バラエティについては言うまでもないだろう。それゆえに彼が再びロックをやった本作を、ロックへのワン・アンド・オンリーの忠誠心みたいな観点から捉えるのは正確ではないと思うのだ。

いくつもの音楽的可能性と選択肢を持ち、その全てを長きにわたって磨き続け、高めてきた希有なアーティストであるスティングが、敢えてロックを選び取った本作だけに、ロックに対する「審美眼」みたいなもののシビアさが違う。そういう意味で本作は2016年の時代性をも相対化した一枚になっているし、これまでのスティングのキャリアを知らない若いリスナーが聴いても本作はきっと興味深く聴こえると思う。これこそスティングの作るべき、鳴らすべきロックの最新傑作だと断言できる一枚。あと、最高にかっこいいスティングが再びポップ&ロック・シーンに戻ってきてくれたというのも、単純に嬉しい!ことなのだ。(粉川しの)
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