今週の一枚 レッド・ツェッペリン『コーダ(最終楽章)』

今週の一枚 レッド・ツェッペリン『コーダ(最終楽章)』

自分の好きな過去の名盤に関しては、やれリマスターだ紙ジャケだSACDだボックスだボーナストラックだデラックス・エディションだ、となにかが出るたびに律儀に買い続け、気がつけば同じアルバムが何枚も何枚も棚に並んでいたりする。で、そういうアルバムはだいたい過去にさんざん聞き込んで隅から隅まで暗唱できるほど覚えているわけで、せっかく新しいブツを買い込んできても、今さら聞く必要もないというか、買っただけで安心しちゃって下手すりゃ封も切らないで放置してあったりする。うずたかく積み上げられたそういうシロモノを眺めていると、衰退するばかりのCD産業を必死に下支えしているのはオレらのようなコレクター(=バカ)じゃないのかと真剣に考えたりするのである。

で、そんな私がここ1年でもっとも回数多く聞いた再発盤といえば、これはもうレッド・ツェッペリン以外ありえないのだ。正確にいえば盤じゃなくてデータですけどね。24bit/96kHzのハイレゾ音源。今までも何度も買い直しているけど、昨年から始まった再発シリーズは、御大ジミー・ペイジ自らが入念なリマスタリングを施したものだから、これまでの再発盤とはモノが違う。中坊のころから夢にうなされるほど聴きこんだはずのアルバムが、びっくりするぐらい新鮮に聴こえる。そしてディテールまでクリアに再生するハイレゾなら、これまで気づかなかったような新たな発見が必ずあるし、彼らが録音したスタジオの空気感まで再現してくれるような生々しさがあるのだ。

さてそのリマスター再発シリーズもいよいよ大団円。『プレゼンス』『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』『コーダ(最終楽章)』の3作だ。正確に言えば『コーダ』は解散後に出た未発表曲集だが、こうして一連のシリーズの一環として出るぐらいだから、メンバーにとってもオリジナル・アルバムと同様の価値と意味があるということだろう。
そして今回この記事を書くために事前に入手したリマスター音源(ハイレゾではなくCDだが)を聴いて、もっとも衝撃を受けたのはその『コーダ』だったのだ!

『プレゼンス』という大傑作のリリース直後に、パンク・ロックの到来という、誰も予想だにしなかったムーヴメントが起きて、それまでのロックが営々と積み上げてきた価値観が一気に転倒・相対化されるという革命が起こった。旧来の権威であるロックの大物たちがことごとく全否定された。ツェッペリンも例外ではなかった。セックス・ピストルズのジョニー・ロットンはロンドンのクラブでロパート・プラントに会った時のことをこう語っている。「あいつは無知な北部の田舎者って感じでさ。ちょっと可哀そうになっちまうぐらいだった。でも一体そんな奴をどうやって尊敬しろっていうんだ?」

こんなクソ生意気なガキどもに、同じようなクソガキだった私は夢中になった。それまで聴き狂っていたストーンズもキング・クリムゾンもツェッペリンも、たちまちゴミになった。パンク〜ニュー・ウエイヴと続く革命の過程で、それまで信じていたものが道ばたに落ちているゴミぐらい無意味で無価値なものになっていく。自分の音楽人生であれほどスリリングで面白い時代はなかったけど、そんなさなかの1982年に突然出た『コーダ』は、一応耳にしてみた、程度の関心しかなかった。でも、当時誰もがそう思ったと思うけど、前作『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』よりもはるかにツェッペリンらしいアルバムだったのだ。文句なくかっこよかったし、楽曲も演奏もとてもボツ曲集とは思えないほどクオリティは高い。

しかし当時は今まさに進行中の「現在」を追いかけるのに夢中で、いまさらツェッペリンなんて「過去」に耽溺するなんてまっぴらゴメンだった。そんなものより面白くて刺激的な新譜が次から次へと出ていたから。

しかしそれから33年がたって、「新譜」も「旧譜」も「現在」も「過去」もごっちゃになってネット上に並列している時代になった。新しいものが一番いいという時代はとうの昔に去った今、『コーダ』のロックは驚くほど生々しい「今の音」として、文句なくエネルギッシュに鳴っている。ある意味で、それまで緻密に計算され構成された8枚のアルバムにはない荒ぶるロックの魅力が、リマスターされた音源から立ち上ってくるのである。

ペイジは自伝『奇跡』で、ボンゾのドラムをどうやって録音したのか、マイキングなどさまざまなノウハウをかなり丁寧に説明しているが、なぜペイジがそこまでボンゾのドラム・サウンドに執着したのか、なぜ彼のプレイがツェッペリンの要だったのか、今回のリマスター音源を聴くと非常によくわかる。

そして見逃せないのがコンパニオン・オーディオ、いわゆるボーナス・ディスクだ。もともと1970年から78年にわたってのアウトテイク集だから、それに呼応する未発表曲集も特定の年のものではなく、幅広い年代のものを集めている。それまでのコンパニオン・オーディオに収められなかったものを総ざらいした感じで、その数、なんとCD2枚15曲である。別ミックス、別テイク、完成途上のものなど多彩だが、個人的に嬉しいのがついにあの「ボンベイ・セッションズ」が正式音源化されたこと。『IV』を作り終えたあとのペイジとプラントがインドに飛んで現地のタブラ奏者やシタール奏者とセッションした民俗音楽色強いもので、ツェッペリンの“カシミール”や、ペイジ=プラント、あるいは現在のプラントのソロ活動にある中近東〜アジア指向の原点を知る上でもきわめて興味深い音源なのだ。ブートでは出回っているが、こうして正規音源として聴けるのは大きい。できればアルバム1枚それだけで出してほしいぐらいだ。

そんなわけで入手して以来『コーダ』の3枚ばかり繰り返して聴いている毎日なのだが、こうやって細かく聞き込んでいくことで、さらに新たな発見が得られそうだ。本作の発売日には当然ハイレゾも同時リリースされるはずなんで、早速DLして聴きまくるつもりなのです。(小野島大)
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