ニール・ヤングは常に怒れる革新者であり続けてきた。そのブレない反骨精神を探る

ニール・ヤングは常に怒れる革新者であり続けてきた。そのブレない反骨精神を探る

遺伝子組換食品種子販売の大手モンサント社のほか、アメリカの企業文化への批判がテーマとなった『ザ・モンサント・イヤーズ』を先頃リリースしたニール・ヤング。この新作はアルバムがそっくりそのままスターバックスやウォルマートなどの企業のほか、長いものに巻かれろとニールを促す音楽業界などへの批判となっていて、まったく物怖じすることなく楽曲でこうした大企業をなぎ倒していくニールの姿がひたすら過激な内容になっている。老境に至ってもなお、まったくぶれないこのニールの過激さは一体なんなのかとよく考えてみると、実際問題としてはニールは昔からただこういう性格であったのだということに気づくのだ。つまり、ニールはどこまでも純粋に思ったり感じたりしたことを極端なところまで突き詰めていく性格なのであって、こうした過激さはそんなニールの人柄の表現になっているだけの話なのだ。

たとえば、記憶に新しいのがニールが昨年立ち上げた高音質デジタル・プレーヤー・システムのポノだ。デジタル音源については90年代の違法ダウンロードの横行に始まって、最近ではストリーミングにおけるアーティストの取り分の低さなど、常にその経済面が音楽業界的に問題となってきたところがある。しかし、先頃スポティファイから全音源を引き上げたニールが問題にしているのは、飽くまでもデジタル音源の音質の悪さやまずさであって、経済面など二の次の問題なのだ。世のデジタル音源というのはニール個人にとってはあまりにも劣悪なものなので、じゃあより優れたデジタル音源再生システムを自分で作ってみた、というのがポノなのである。実際に出来上がったものは音質が優れていることは誰もが認めていて、ニール自身、ポノと較べたらMP3音源は水深300メートルの水中で音楽を聴いているのに等しく、さらにCDについては水深60メートルの水中で聴いているようなものだとまで豪語しているのだから、ほとんどマッド・サイエンティストの域に達しているといってもいいのかもしれない。しかも、このポノをちゃんと事業として軌道に乗せ、メジャー・レーベル各社のバックアップも受けているところがニールのすごいところなのだ。

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そもそもはニールの音楽活動自体が、こうした意外性に満ちたものだったことが多く、ニールの活動は常に聴き手を驚かせるものになってきた。たとえば、ニールはバッファロー・スプリングフィールドやクロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤングではフォーク・ロックやポップ・ロックというジャンルのサウンドを確立するという偉業をほかのメンバーらと成し遂げたといってもいい。しかし、その一方でこうしたグループ・プロジェクトの合間にニールはクレイジー・ホースを率いて制作したセカンド・ソロ『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース』でどこまでもささくれ立ったエッジーなロック・サウンドを同時に打ち出したりもしているのだ。とりわけ、"ダウン・バイ・ザ・リヴァー"などはどこかぎこちないギター・リフをただかき鳴らすために9分以上もの演奏を試みるという過激なものとなっていて、ある意味でこの徹底して妥協を知らない態度こそまさにニールの真骨頂なのだ。その後もニールはシンガー・ソングライターとしてのアプローチとクレイジー・ホースを率いてのロック路線の両面を追求していくことになったが、80年代に入ってからはさらにエレクトロニック・サウンドによるアプローチまで試みるという、およそ同年代で同系統のアーティストであれば誰も手を出さなかった領域にまで踏み込んでいくことになった。

近年では政治や社会に向けたメッセージ色の強い作風が多くなっているニールだが、新作『ザ・モンサント・イヤーズ』に負けず劣らず歯に衣を着せないアグレッシヴな内容となったことで記憶にまだ新しいのは2006年にリリースした『リヴィング・ウィズ・ウォー』だ。たとえば、1989年の『フリーダム』の"ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド"なども当時のブッシュ大統領の施政への批判を風刺として歌う内容だったが、『リヴィング・ウィズ・ウォー』はアルバム全編がイラク戦争を引き起こしたその息子のブッシュ大統領を露骨にボロクソにこきおろす内容のコンセプト・アルバムになっていたところがすごかった。実際問題として"レッツ・インピーチ・ザ・プレジデント"(大統領をみんなで弾劾しよう)という曲名の楽曲まで収録しているのだから、やる時は徹底的にやるというニールのお手本といってもいいような作品になっている。

◆Neil Young “Living With War”

また、ニールは環境保護のために積極的に活動していることで知られていて、最近では特にシェール・ガスの掘削法やカナダの油砂開発、あるいは北アメリカを縦断するパイプライン建設計画などについていずれも地質汚染や環境破壊、あるいは温暖化につながると事あるごとに糾弾していて、こうしたキャンペーンのためのライヴ・ツアーを組んでは行っていることもよく伝えられている。しかし、こうした環境問題面でもやはりニールがユニークなのは排ガスをまき散らしていた頃の1959年型リンカーン・コンチネンタルをエタノール・エンジンと電気駆動のハイブリッド車として改造してみせてしまうところで、実際、環境問題系のイヴェントに参加する際にはこの愛車で自宅のあるカリフォルニアからカナダまではるばる乗って行ってしまうのだという。しかも、ニールはこの愛車開発のためリンクヴォルトという会社まで立ち上げているというのだから、どこまでも過激にDIYなのである。ちなみにこの愛車の2代目は2010年に電源充電の際に火災を発生させ、充電を行っていたニールの専用倉庫もろともまるごと焼けてしまったという(現在ニールが乗り回しているものは3代目)。

ニール・ヤングの倉庫が山火事、原因はニール・ヤングの個人研究開発

倉庫にはほかにニールの楽器や映像や音源などさまざまなものが保管されていたため、火災は時価1億円を超える大損害となってしまったとか。損害額があまりにも高額だったため、火災保険をかけていた保険会社からもニールは訴訟を起こされたそうだ。(高見展)
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