今週の一枚 ブラー『ザ・マジック・ウィップ』

今週の一枚 ブラー『ザ・マジック・ウィップ』
ブラー
『ザ・マジック・ウィップ』
4月29日発売

デーモン自身もほんの1年前rockin’onのインタヴューで「今後もリリースされることはないだろう」とバンド終焉宣言をし、グレアム自身も最近「ハッピーな事故みたいなものだった」と形容していた、ブラーにとって12年ぶりの最新アルバム。グレアムが加わったオリジナル・メンバーの作品としては1999年の『13』以来、実に16年ぶりの新作ということになる。
そんな「出るはずのなかったブラーの新作」が何故2015年の今リリースされることになったのか?

2月のロンドンで行われた記者会見でも明かされたように、このアルバムは2013年5月に彼らが出演するはずだったTokyo
Rocksがキャンセルになった際、「予期せぬオフ×5日間」を手に入れた彼らが香港で録音したセッションが原型になっている。
アート・ワークや歌詞にアジアンなモチーフや題材が頻出するのもこのせいだが、サウンド的には、もしグレアムが『13』制作の途中で脱退していなかったら今頃はこんなアルバムを創っていたんじゃないか?と思うほど「2015年のブラー」を反映したコンテンポラリーな作品になっている。

ブリット・ポップがセルフ・パロディになり始めた90年代後期、誰よりも先に「ブリット・ポップは死んだ」と言い放ち、それまで多くのヒットを連発した“ブリポ路線”から大きく方向転換した『ブラー』や『13』を作ったデーモンにとって、自分達(ブラー)の表現が「コンテンポラリーな時事性を持つ作品であること」は常に重要な創作モチベーションのひとつだった。
2008年~2009年に実現した初の再結成→2012年夏のロンドン五輪閉会式にあわせたハイドパークでの再結成ライヴ&以降のワールド・ツアーと、これまで何度か再結成をしてきた間にも「新作を創り始めたことが2回あったが、デーモンが2回とも途中でストップをかけ反故にしてきた」というエピソードからも、ノスタルジアまみれの安易なブリポ・アンセムばかりの新作は創りたくない、というデーモンの強固な進歩派アート志向が感じ取れる。

そんなデーモンが昨年の9月「あの香港で行ったセッションにもう一度手を加えて新作を完成してみたい」と持ちかけてきたグレアムに即ゴー・サインを出し、その後グレアムがスティーヴン・ストリートと共に原型のセッション・テープを編集し、その出来を気に入ったデーモン本人も以後、本格的に制作作業に加わる形で完成したのが、今回の新作『ザ・マジック・ウィップ』。

一聴した瞬間、まるでデーモンのソロ・ワークにグレアムが参加したようなアルバム!かつてないほど「デーモン+グレアムの音楽資質」が濃厚に出た作品だな、という印象を受けたのだが、
いちバンド/プロジェクトには収まりきれないほど多くの音楽言語を持つデーモンの「膨大なアイデア群をブラー的なサウンドに置き換えるのが常にブラーにおけるグレアムの役割だった」という最新発言(←5月1日発売の次号Rockin’onに掲載)を聞いて、やっとこれまでの謎が少し解けた。

本作にはどこから聴いてもブラー!なコーラスを持つキャッチーなポップ・ソング、デーモンのソロ作に入っていてもおかしくないような近未来シンセ・バラッドやワールド・ミュージック風味の曲、ブラー脱退後のグレアムが10年以上もソロ期を経たからこそ鳴らせる「以前のブラーとは違うギターの音色/サウンド感」が際立つ曲、と過去16年のデーモン&グレアムの音楽遍歴すべてを網羅した、やたら濃密な新作になっている。

昨今の再結成ブームに乗って復活したり新作を創ったりするバンドは多いが、過去の自分達の遺産=「確実にヒットを生む昔の手法」に頼らず、「表現者としての自分達の進歩」をここまで大胆に打ち出した高クオリティの新作を創ってきたバンドは、今のところブラーしか思い当たらない。

さらに今回はデーモンが原型のセッション・テープをグレアムに渡した際、編集プロセスにおける芸術的イニシティヴのかなり大きな部分をグレアムに委ねたようで「スタジオ内ではどんな展開でもあり、な作業だった(最近の英紙のグレアム談)」という。
そんな経緯もあり、これまで見逃されがちだった「ブラーにおけるグレアムのプロデュース能力」がかつてないほど開花したアルバムという意味でも、ファンにとっては嬉しい新作。
一回聴いただけでは全貌が掴めないほど情報量が多く、“隠し味”が各所に散りばめられた作風になっているのも多分このへんからきていると思われる。
というようなリピート・リスニングを促す今作の特徴も含め、
この新作を待ちに待ったファンの一人としても、長く聴きこめる愛聴盤になりそうだ。

追記:現21世紀世界を象徴する“事件/トピック”の数々を暴いた歌詞の詳細については、次号rockin’on掲載の最新インタヴューでデーモン自身がしっかり解明してくれています。
こちらも併せてぜひ。
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