今週の一枚 アクスウェルΛイングロッソ『モア・ザン・ユー・ノウ』

今週の一枚 アクスウェルΛイングロッソ『モア・ザン・ユー・ノウ』

アクスウェルΛイングロッソ
『モア・ザン・ユー・ノウ』

デジタル・アルバム:7月28日(金)配信開始
CD:8月4日(金)発売


「EDC JAPAN 2017」から約4か月、「SUMMER SONIC 2017」で日本のステージに帰ってくるアクスウェルΛイングロッソ。本作は日本独自の編集盤なのだけれども、アルバム音源として充実した内容になっている上、2010年代EDMを読み解く資料としても極めて重要な作品だ。もともと、『モア・ザン・ユー・ノウ』は彼らがこの5月にデジタルリリースした4曲入りのEPなのだが、本作はユニット結成の2014年以降にリリースしてきた代表曲をズラリと並べ再編集した、現時点でのベスト盤と言える内容に仕上げられている。

EDM隆盛の歴史を語る上で、スウェディッシュ・ハウス・マフィア(SHM)というグループは、今日ますます神格化・伝説化された存在になっていると言っていいだろう。それぞれにキャリアを積んだスウェーデン出身のDJ=アクスウェル、スティーヴ・アンジェロ、セバスチャン・イングロッソの3人は、2008年から2013年までの4年強という短い間に、このグループの名義で世界各地のアリーナや野外ライブ会場、大規模フェスを席巻した。


SHM解散の翌年、アクスウェルとイングロッソは2人のユニットを結成し、新たなキャリアに踏み出した。彼らには、ポストSHMとしての役回りがその双肩に重くのしかかることになる。ソロアーティストとして独自の道を追求することができたスティーヴ・アンジェロとは違い、アクスウェルΛイングロッソは自ら、SHMの志を継ぐグループとして人々の期待に応えようとしてきた。「元SHM」という肩書きはもちろんアドバンテージにも成り得るし、彼らのステージではSHMのトラックが大活躍する。しかし、余りにも巨大になり過ぎたEDMシーンで伝説の続きを語りながら、同時に新鮮さに貪欲なダンスミュージックの本質と折り合いを付けるというのは困難な作業だろう。

アクスウェルΛイングロッソの楽曲というのは、言わば伸び盛りの思春期を過ぎたEDMの、その後の日々の格闘の記録である。まさに新たな視界を切り開くようなサウンドと高らかな歌声によって完成した“Something New”。大会場でのシンガロングを予め楽曲デザインに織り込んで見せた、ドラマティックなヒットチューン“Sun is Shining”。フレンチエレクトロからの絶大な影響をシンセリフに込めることで、自分たちの世代を語ってみせた“Dream Bigger”。また、ボーナストラックにはアクスウェルとイングロッソが2016年にそれぞれ発表したソロ名義曲も収められている。


最近のEDMライブでは、このカルチャーが盛り上がりを見せるよりも前から活躍してきたベテランDJたちの、重圧を跳ね除け期待に応えようとする懐の深いサウンド構築に、胸を熱くさせられることがよくある。ぜひこのアルバムを聴きこんで、サマソニに備えてほしい。《ベイビー 本当にきみは最高だ/きみが思ってる以上に》。フォーキーで情緒的なフューチャーハウスに乗せてそんなふうに届けられた“More Than You Know”のフックに熨斗をつけて、アクスウェルとイングロッソに返してやろう。今のあなたたちはもう、単なる「元SHM」じゃない。(小池宏和)
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