今週の一枚 セックス・ピストルズ『ライヴ’76』

今週の一枚 セックス・ピストルズ『ライヴ’76』

セックス・ピストルズ
『ライヴ’76』
8月19日(金)発売

セックス・ピストルズの1976年のライブ音源を4本分まとめたライブ・コンピレーション作品だが、なんでこの音源集を今聴く必要があるのかというと、もちろん今年がイギリスでのパンク・ロック勃発40周年にあたるということもあるが、それ以上にこの音源はピストルズの爆発力と画期性をあまりにも確かに伝えるものになっているからだ。音源そのものは過去にもこれまで非公式に流通していたものが多いが、ここまできちんとひとつひとつのライブを再現した音源はこれまで存在してこなかったし、こうやって体系的に76年というあまりにも重要な年に注目してまとめられたこともない。しかも、今持てる技術で可能なところまですべてリマスタリングしてあるので、もともとが劣悪な環境で録音された音源であるとはいえ、当時のピストルズの殺人的な迫力を伝えるという意味で画期的な作品になっている。

しかも、バンドの歩みにとっても非常に重要なポイントをこの4つのライブとして押さえてあるところも聴き応えあるものとなっている。たとえば、最初の1976年6月4日のマンチェスター公演は、パンク・ロックがイギリス全土へと波及するきっかけとなった歴史的なライブでもある。75年の11月から活動を本格化させたピストルズのライブは76年2月頃から話題のバンドどころでは済まされない、ひとつの現象という様相を帯び始め、音楽誌がこの様子を伝えてはさまざまな音楽ファンがピストルズのライブを追い始めることになる。このマンチェスター公演は、そうやってピストルズを目撃した学生で触発されてバズコックスを結成したハワード・ディヴォートとピート・シェリーが自分たちの手でピストルズをマンチェスターに呼びたいと完全にDIYで興行をしかけたライブでもあった。そんな伝説となったピストルズのごく初期のライブがここでは確認できる。

続く8月29日のライブではオープナーをその後のファースト・シングルとなる“Anarchy in the U.K.”が飾っていることが特に重要で、この曲の登場によってピストルズの活動はそのままパンク・ロックという、紛うことなきムーヴメントへと転化していったといってもいい。ちなみにこの曲がライブで登場したのは、7月に行われたマンチェスター公演でのことだった。また、7月にはザ・ダムドとザ・クラッシュがそれぞれにピストルズの前座としてライヴ・デビューを飾ることになった。いずれのバンドもレコーディングのリリース時期などでピストルズに先んじているので、どこかパンク・ロックとは同時多発的なムーヴメントだったのではないかという錯覚にも陥りがちなのだが、イギリスのパンクとはあくまでもピストルズの登場によって初めて勃発した事件なのだ。77年の10月にようやくリリースされたファースト『勝手にしやがれ』の原題が「真打登場」という意味であるのも、そういうことなのだ。このライブもそれを裏付ける、ひりつくようなパフォーマンスとなっていて、ある意味でこの音源集で最も重要なライブかもしれない。

3枚目の9月17日のライブはチェルムスフォードにある若年層対象の刑務所でのライブ。明らかにジョニー・キャッシュがフォルサム刑務所で行った1968年のライブ名盤『アット・フォルサム・プリズン』のパクリで、いかにもマルコム・マクラレンらしい企画。ただ、ブートレグとしても有名な9月25日の76クラブでのライブの全貌を収録した4枚目と一緒に合わせ聴くことが重要で、ピストルズのファーストに至るサウンドがほぼこの時点で仕上がっていたことがわかるのだ。ファーストのあまりにも圧倒的なサウンドについてはよくプロデューサーのクリス・トーマスによるマジックだと説明されることもあるが、そうではなくて、あくまでもクリスが自身で聴いたライブでのピストルズの壮絶さを再現したものがファーストのサウンドなのだということがこの2枚でよく確認できるのだ。(高見展)
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