今週の一枚 ウィーザー『ウィーザー(ブラック・アルバム)』

今週の一枚 ウィーザー『ウィーザー(ブラック・アルバム)』

ウィーザー
『ウィーザー(ブラック・アルバム)』
3月1日(金)発売


2016年リリースの10作目となるオリジナル・アルバム『ウィーザー(ホワイト・アルバム)』で、ウィーザーはバンドが追求してきたポップネスを集大成的にひとつの到達点としてまとめあげたような素晴らしいアルバムを作り上げた。その次に制作に取り掛かったのが、12作目のオリジナル・アルバム『ウィーザー(ブラック・アルバム)』であり、順当にいけばこれが『ホワイト・アルバム』の次にリリースされる予定だった。

しかし実際には『ホワイト・アルバム』後にリリースされたのは、『パシフィック・デイドリーム』だった。『パシフィック・デイドリーム』は幻惑的なまぶしい浮遊感を携えて、バンドの新たな一面を見せながら、より『ホワイト・アルバム』を突き詰めたようなイメージを持つ作品。あるいは、今作『ブラック・アルバム』での大きな変化へと至る前に様々なチャレンジを試みた、過渡期ならではの魅力を見せる作品だった。さらには、『ブラック・アルバム』リリース直前に、すべてカバー曲で構成された『ウィーザー(ティール・アルバム)』のサプライズ・リリースもあり、ウィーザーが『ブラック・アルバム』を完成させるためには、これら2作の習作的な意味合いを持つ作品のリリースが必然だったのではないかと、今となっては思えてくる。そして、その必然が十分に理解できる、大名盤ができあがったと言っていい。変化作であり、大充実の新たなポップ作品の完成だ。


『ホワイト・アルバム』の次が『ブラック・アルバム』になるという話を聞いた時、その表裏の対比を感じさせるダークな作品になるのではないかと予想した。しかし、先行で公開されたシングル“Can’t Knock The Hustle”に触れて、リヴァース・クオモはまったく新しいサウンドを求めていることを知る。ジェイ・Zの楽曲と同名であり、そのまま彼にインスパイアされたようなヒップホップのビートを取り入れた新機軸。『ブラック・アルバム』というタイトルも、ウィーザーのセルフタイトル作の流れを汲むのと同時に、ジェイ・Zの同名アルバムへのオマージュと受け取ることもできる。

前作の“Mexican Fender”などにもその片鱗を見ることはできるが、ウィーザーは『ホワイト・アルバム』以降、明確に変化を求めながら、自身の原点にヒントを求めるような『ティール・アルバム』に取り組むなど、とてもユニークな制作活動の時期になったと思う。今回の『ブラック・アルバム』は、初めてリバースがひとりでピアノですべて作曲したというのも興味深い。そこにこのビートやリズム。明らかにこれまでのウィーザーにはなかった視点だ。

“Can’t Knock The Hustle”の実験的なアプローチは、バンドが様々な音楽を飲み込んで、それがどんなジャンルのものであろうと、最終的には明確にウィーザーの楽曲として完成することを示してみせた。どんなにダークで口汚い言葉で歌詞を綴っても、ウィーザーのポップがそこに宿る。“Zombie Bastards”は、ミニマムなビートにのせて、ウィーザーの泣きのポップネスと現代のサウンドデザインとを見事に融合させた文句なしの名曲だし、続く“High As A Kite”で光の裏に色濃い影をも感じさせるメロディの美しさは出色。頭3曲を聴くだけで、ウィーザーの現在地をはっきりと感じることができるだろう。“Living in L.A.”でのディスコ・サウンドへのアプローチも新鮮で面白い。これは『ティール・アルバム』への取り組みがあったからこそかもしれない。ウィーザーのポップは、より自由に、そしてより洗練されて、新たな境地へと至った。


もうすでに次作、次々作の制作までもが進んでいると聞く。雑多なイメージが渦巻くというよりも、具体的にやりたいことが明確に、同時に複数あって、もしかしたら制作が追いつかないという状況なのかもしれない。けれど、それが混沌としたものにならないように、リバーズはおそらく非常に慎重に作品を作り上げているはずだ。今作『ブラック・アルバム』の完成度からもそれがうかがえる。この「変化」がこの次はどのように着地するのか、とても楽しみだ。ウィーザーのピークはまさに今現在であって、それは今後も更新されていく予感に満ちている。(杉浦美恵)
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