今週の一枚 ヨ・ラ・テンゴ『There’s a Riot Going On』

今週の一枚 ヨ・ラ・テンゴ『There’s a Riot Going On』

ヨ・ラ・テンゴ
『There’s a Riot Going On』
3月16日発売


3年ぶりとなるヨ・ラ・テンゴの新作だが、前作『スタッフ・ライク・ザット・ゼア』がカヴァーとオリジナル曲を織り交ぜていく原点回帰的な作風だったことを考えると、2013年の『フェイド』以来のオリジナル作品といえる。そして、その内容は相変わらずピカイチの楽曲とパフォーマンスとサウンドが揃い、すべてセンスがよすぎるという素晴らしい内容になっている。

もともと、ヨ・ラ・テンゴはパンク・ロック以降のあらゆるオルタナティヴ・アプローチを自身の作風として揃え、それをギター・ポップ、ドリーム・ポップ、エレクトロ、ノイズ・パンクなど、さまざまな楽曲の形としてひとつのアルバムの中に収録してくるわけだが、およそこれまでで外した楽曲もなければ、外したアルバムもないという、驚異のクオリティを誇ってきた。そして、今作もまた、そんな内容が聴ける嬉しい作品になっている。

ただ、今回はタイトルはやたらと不穏な感じもある。というのも、この『There’s a Riot Going On』というのは、いわずとしれたスライ & ザ・ファミリー・ストーンの1971年の『暴動』の原題とほぼ同じだからだ。スライ・ストーンの『暴動』はそれまでのポジティブなファンク・メッセージを幻滅と懐疑へと向かせた問題作として知られているし、原題の「暴動が今勃発している」というメッセージもまたもちろん、今のアメリカの置かれた状況を暗示させるものでもある。

しかし、内容的にはそのような激しいメッセージ性を伝えるものではなく、それぞれに際立った世界観が出来上がった楽曲が次から次へと姿を現していく、いつものヨ・ラ・テンゴの世界が見事に繰り広げられるものだ。


ただ、今回のアルバムにあえて『暴動』的な要素があるとすれば、それはジェイムズ・マクニューのベースがファンキーに活躍する曲が多くなっているところだ。特にジェイムズは前作『スタッフ・ライク・ザット・ゼア』からウッド・ベース的なサウンドを多用し始めている。

そのダイナミズムが今作ではよりファンキーな形で地となり肉となった、厚みのあるベースとして堪能できるのだ。ただ、それは決してぎらぎらしたファンクになることはなく、たとえば、“Above the Sound”のように、ジャズのハード・バップ的な演奏として鳴っているところが、どこまでもヨ・ラ・テンゴ的な趣味とセンスのよさを伝えるものになっている。

ジェイムズのこの系統のベースが聴ける曲が今回のアルバムでは個人的には際立ってかっこよく、どこまでもSF的なテックス・メックスを聴かせる“What Chance Have I Got”のけだるい絶望はすさまじい迫力も感じさせるトラックになっていて、しびれる。あるいは“Forever”の強烈なベースラインに被さるボーカルのコーラスのドゥーワップ的なアレンジなど、いちいち心憎いアレンジが多い。

いずれにしても非常にコンテンポラリーな“Out of the PooI”やフィナーレとなる“Here You Are”など、終盤に固まった楽曲群でのジェイムズのベースの際立った存在感が今作では大きな魅力であり、ある意味でこれがひとつの『暴動』なのかもしれない。

ただ作品全体としてはもちろん、楽曲ごとに七変化を見せており、ヨ・ラ・テンゴならではのポップさやエッジもふんだんに聴けるものだ。順当に“Shades of Blue”、“She May, She Might”、“For You Too”などどいった珠玉の名曲の形でのっけから堪能できる展開にもなっている。

ただ、圧倒的にすごいのは中盤の“Dream Dream Away”から“Shortwave”にかけての夢見心地なサウンドとその浮遊感で、ただひたすらに美しいその展開にもうただ脱帽するしかない。(高見展)

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