今週の一枚 ザ・ローリング・ストーンズ『ライヴ・アット・ザ・トーキョー・ドーム 1990』

今週の一枚 ザ・ローリング・ストーンズ『ライヴ・アット・ザ・トーキョー・ドーム 1990』

ザ・ローリング・ストーンズ
『ライヴ・アット・ザ・トーキョー・ドーム 1990』
10月14日(水)発売


『rockin'on』11月号はご覧になっただろうか。そう、ソロ・アルバム『クロスアイド・ハート』をリリースしたばかりのキース・リチャーズが表紙になってるアレだ。もし現物を見ていないという方がいたら、お近くの本屋さんで手にとって、その強力すぎるヴィジュアルをぜひ実物大でご確認いただきたい。因業そのものの深い深いシワを刻み込んだキース翁がニカッと笑いかけるド迫力は、間違いなく『rockin'on』表紙史上最高級と言える。と同時に、ついにロックはここまできたかと思わせる。晩年のジョニー・キャッシュやマディ・ウォーターズが到達したような枯淡の境地。何も語らずとも、そこにいるだけで百万語の会話を交わしたような、その深いシワだけで幾千もの物語を紡いでいるような、そんな絶対的存在感。

ロックは今でも若者の音楽であり、日々新しい16歳がやってきて、そこに新たな感性やナーヴな解釈や物語を付け加えていって、だからこそロックは今まで停滞せずに持ちこたえてきた。だが若さを売りにせずともロックはロックたりうる。カントリーやブルースに比べれば歴史が浅いゆえ、多くのロック・ミュージシャンたちは年をとってからの身の処し方がわからなかった。だがほかならぬキースがそれを身をもって実践しているのである。

さて、もちろんキースだって最初から72歳の老人だったわけではない。若さ溢れるギラギラとした精気を発散させていた時代もあった。当たるを幸いなぎ倒す勢いでシーンを席巻しながら、乱脈を極めた私生活、度を過ぎた麻薬中毒で「ジミヘンやジャニスやモリスンの次に死ぬのは奴だ」と言われていた時代もあった。毎年一回全身の血を入れ替えていると噂されていたこともあった。音楽的にも、パンクの台頭で精彩を失っていた時期もあった。それぞれに想い出が染みついているが、だが多くの日本のストーンズ・ファンにとって、もっとも印象深いのが、1990年の初来日時のキースではないだろうか。

2月14日から27日にわたり、計10公演が東京ドームで行われた、ザ・ローリング・ストーンズ初来日ツアー。あの時のことは、忘れようと思っても忘れられるものじゃない。ミックとキースの確執で、もうストーンズはオシマイだと言われていた。それが劇的な和解を果たし、その時の心境を歌った名曲“Mixed Emotions”と、アルバム『スティール・ホイールズ』を引っさげての、10日間公演。全部見た。当時仕事場があった東中野から水道橋まで、まるで通勤するように毎日通った。チケットは1万円だから、計10万円かかった。全然惜しいと思わなかったのは、たぶんストーンズの来日公演なんてこの先二度とないだろうと思ったからだ。

その初来日公演を収めた映像作品が出るというのだから長生きはするものである。『ライヴ・アット・ザ・トーキョー・ドーム1990』は10日公演のうち9日目、つまり2月26日公演を収めている。この日の様子は当時TV放映もされたが、その映像素材を使いながらも、画質音質は当然劇的に向上。編集もやり直されていて、大画面での視聴にも耐えるものに仕上がっている。

超満員の東京ドームのあちこちで見た、中年盛り(40代半ば)のキースやミック。しなやかにカラダをくねらせるミック。今もそうだが、体型も動きも声も若い頃と変わらない。のちに来日公演になるとキメのポーズをとることにばかり熱心で、なかなかギターを弾いてくれない時期もあったが、この時のキースは少し緊張気味にも映る。

25年ぶりに見た25年前のストーンズ。はっきり言って冷静な批評的ファクターなどクソ食らえである。見ている間じゅう、忘れていたいろんなことが思い出されて仕方なかった。いいことも悪いことも、楽しいことも悲しいことも。いなくなってしまったビル・ワイマンも、死んでしまったボビー・キーズもいる。だが、不思議に「懐かしい」という気分にはならなかった。彼らの「ロックの核」はすでに確立されていて揺るぎない。枝葉の味付けなど関係なく、時代の波にも移ろいやすい流行の変動からも無縁な領域に既に到達していたのである。

この時のキースには、今のキースのような絶対的な、突き抜けたような存在感はまだない。まだいろんな煩悩や迷いやしがらみを抱えているようにも見える。和解したとはいえいろいろあった相棒。初めての地でいきなりのスタジアム10日間公演。緊張もあったのだろう。だが観客の熱狂的反応への手応えと、再びと仲間と一緒に音を出せるという喜びは、確実にストーンズのその後25年を支え、キースを変えたはずだ。そんな分岐点となった1990年のキースとストーンズが、ここにある。(小野島大)
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