今週の一枚 フランツ・フェルディナンド『オールウェイズ・アセンディング』
2018.02.10 16:00
フランツ・フェルディナンド
『オールウェイズ・アセンディング』
2月9日発売
フランツ・フェルディナンドがある意味「フランツらしくない」新境地へと大胆に突き進み、その結果として「フランツらしい」ダンス・ロックが飛躍的に強化された一作となったのが、彼らの約4年半ぶりのニュー・アルバム『オールウェイズ・アセンディング』だ。彼ららしさがぎゅっと凝縮されていた前作『ライト・ソーツ、ライト・ワーズ、ライト・アクション』と、彼ららしくない逸脱作だった前々作『トゥナイト』の、まさに良いとこ取りのアルバムだとも言える。
加えて、本作をさらに活き活きと躍動させているものは、「常に上昇し続ける(Always Ascending)」というタイトルにも象徴されるように、完成形よりも進化形を追い求めることを選んだ彼らのマインドセットの変化も、その要因のひとつとして挙げられると思う。この『オールウェイズ・アセンディング』が全曲踊れる最高のダンス・ポップ作であるのは間違いないが、全曲かちっとしたフォルムを持つポップ・ソング集と言うと、少し語弊があるのはそのせいだろう。そう、本作はフォルムよりもムーヴメントが際立つ、非常に動的なアルバムでもあるのだ。
本作における最大のポイントは、フランツがここまで全編にわたってエレクトロニクスを導入したアルバムは初だという点だ。彼らのこの新境地は、ニック・マッカーシー(G)の脱退ともちろん無関係ではない。ニックと入れ替わりで新メンバー2人(ジュリアン・コリー、ディーノ・バルドー)が加入し、これまではニックが一人で受け持っていたギターとキーボードのパートがジュリアンとディーノにそれぞれ分割されたことによってキーボードの役割が一気に増大したことは想像に難くないし、ジュリアン・コリーという人がエレクトロ畑のプロデューサー、アレンジャーという経歴の持ち主だったことも、アレックスたちに大いに刺激を与えたようだ。
ちなみに本作のプロデュースを務めたのはカシアスのフィリップ・ズダール。言うまでもなく彼はフレンチ・タッチを代表するアーティストであり、無限音階がユーフォリックな5分20秒を誘う魅惑のディスコ・ポップ“Always Ascending”や、デヴィッド・ボウイの“China Girl”を彷彿させる“Paper Cages”、80Sエレ・ポップ調のユーモラスなシンセ・ループが効いた“Lois Lane”などは、まさにズダールとのコラボの成果だ。フランツのエレクトロ作という意味では『トゥナイト』もそうだったが、シネマティックなあくまで「アート」としてシンセをコラージュしていた『トゥナイト』と比較すると、本作のそれは圧倒的にダンス・フロア向けでオープンな響き、そして何よりも単純に楽しい!のがポイントだ。
ただし、本作をエレクトロ・ポップに舵切った脱ギター・ロック作と捉えるのはまったくの間違いだ。前述のようにギターとキーボードがそれぞれプロパーのパートとなったことで、キーボードの役割が一気に増大したのと同じ意味において、専従ギタリスト(ディーノは元1990s。思いっきりグラスゴーのギタポ一派の出身です)を得て最大でトリプル・ギターが可能となったフランツのサウンドは、ギターの自由度も一気に増大したからだ。ザクザクと垂直に切り刻むような簡潔でシャープなリフの持ち味はもちろんのこと、メロディと並走するキーボード…かと思いきや、実はそれがギターで鳴らされていたり、タイトなファンク・グルーヴをベースではなくギターが牽引していたりもするという、未だかつてないほどユニークでカラフルなギター・サウンドが満載なのだ。
そして、変拍子エレクトロ・ビートとパンキッシュなボーカル&ギターが合いの手を入れ合うようにリズミカルな“Lazy Boy”や、1月のプレミア来日公演でもハイライトを飾った“Feel The Love Go”あたりは、エレクトロの増大とギターの発展が相乗効果を生み、ピークタイム目がけてぐんぐん加熱していくナンバーで、冒頭に書いた「らしくなさ」によって「らしさ」が強化されたとは、つまりこれらのことだ。そして30秒毎にヘヴィ・メタル、サイケデリック、ヒップホップとメインパートがくるくる入れ替わるエクレクティックな“Huck and Jim”は、エレクトロクスとギター・ロックのミクスチャーを成功させた本作のフランツが、既にその先へと貪欲に歩を進めている証のナンバーでもある。
「踊れるロック」を追求し続けてきたフランツ・フェルディナンドが、こうして自分たちのダンス・ロックの範疇をブチ破り、新旧サウンド・エレメンツで螺旋を描きながら上昇している。デビューから15年、会心の第二章の幕開けなのだ。(粉川しの)