今週の一枚 ハウ・トゥ・ドレス・ウェル

今週の一枚 ハウ・トゥ・ドレス・ウェル

ハウ・トゥ・ドレス・ウェル
『ホワット・イズ・ディス・ハート?』


コールドプレイの圧倒的な新作『Ghost Stories』がヨーロッパにおける今年最大級のソウル・アルバムだとするなら、
このアルバムこそそれに答えるアメリカの今年最大級のソウル・アルバムだ。
両方ともとてもピュアなソウル・アルバムである。
ただ、そこに辿り着いたプロセスは全く違う。言うまでもなく。
そこが面白い。
今のポップ・シーンの最前線に起きていることを理解する上で、この2枚は象徴的な意味を持つ。

コールドプレイの『Ghost Stories』は、「バンド」の現代的な展開としてのソウル・ミュージックが鳴っている。
コンピューターが音楽にもたらしたグルーヴの進化、あるいは聴き手の感性にもたらしたセンスの変化を、4人組のバンドとして受け入れて消化した帰結としての、あのモダンなR&Bのサウンドだった。
先日の来日公演では、新作のあの限りなく打ち込みに近いトラックをちゃんとリズム隊の2人が人力で演奏していたのがその証だ。
こうした傾向———バンドという形態によるエレクトロニックなソウル・ミュージック−−−は、もはや先端的な「バンド」としてのあり方としてごく当たり前になりつつある。
The xxや、ディスクロージャーですらざっくり言えばそういうものである。
バンドの今的展開なのである。

一方、シンガーソングライターの世界でもコンピューター/エレクトロニクスが、
形態だけではなくその表現の本質に大きな変革をもたらしている。
ツールとしてアコギがエレクトロニクスに変わっただけではなく、ソングライティングの姿勢が変わりつつある。
一言で言えば、ぐっと内省的になった。
自分が弾きこなせるギターの限界、あるいは生身のミュージシャン達とのやりとりの中で生み出すアンサンブルという枠組みの限界を超えて、
ソフトウエアとマウスでどこまでも深く自分の内面の奥へ奥へと入っていき、
そのヴィジョンを緻密に描くことができる。
そして、その奥で見つけた自分の魂がどれほど打ちひしがれた悲しいものであったとしても、
エレクトロニクスのビートにそれを委ねて恐れることなくアウトプットすることができる。
ソウル・ミュージックとして解き放つことができるのだ。
それがシンガーソングライターの今的展開である。

ハウ・トゥ・ドレス・ウェルはそうした新しいソングライターのあり方をデビュー時から体現してきたアーティストで、
この3作目はその偉大な到達点だ。

生楽器とエレクトロニクスのバランス、サウンド・プロダクションの完成度、ソングライターとしての内省の深さ−−−すべてが見事なまでだ。
ルーツ・ミュージックのスピリットを新たなアプローチの中でしっかりと捉え直す、
アメリカン・ポップ・ミュージシャンとしての良心も作品に溢れている。

『What Is This Heart?』(この心というものは何だろう?)というストレートなタイトル通りの、限りなくディープなソウル・アルバムだ。
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