今週の一枚 ジェイムス・ベイ『エレクトリック・ライト』

今週の一枚 ジェイムス・ベイ『エレクトリック・ライト』

ジェイムス・ベイ
『エレクトリック・ライト』
5月18日発売


肩にかかるストレートのロング・ヘアに黒のつば広ハットを被り、細身のブラックデニムや細身のブラックスーツを身にまとってコブシの効いたソウルフルな歌声でシャウトし、王道ストレートなロックンロールをかき鳴らす。デビュー・アルバム『カオス&ザ・カーム』の頃のジェイムス・ベイは、まさにそんなクラシカルなロックンロール・アイコンとしての、ギター・ヒーローとしてのイメージを引っさげて登場したニューカマーだった。

ロックンロールもギター・ミュージックも時代に取り残されつつあった2015年にあって、彼のまったくぶれないサウンド志向はむしろ新鮮だったし、ロックンロールとギター・ミュージックの軸が揺らいでいる時代だからこそ、新世代である彼が改めて軸をもびしっと通し直そうとした『カオス&ザ・カーム』は大絶賛と共に迎えられた。実際、このデビュー・アルバムで彼は全英1位を獲得。「BRIT Awards 2015」で批評家賞を受賞、グラミーにもノミネートされるなど見事な結果を残した。

あれから3年、ジェイムス・ベイの待望のセカンド・アルバム『エレクトリック・ライト』が到着した。アルバム・タイトルのニュアンスからも何となく予想していた人も多いんじゃないかと思うが、端的に言えば大変化の一作である。時代に阿らず、普遍的なロックンロール、ギター・ミュージックをやっていたジェイムス・ベイが、ここでは積極的に新しいサウンドやトレンドを取り入れ、モダンなポップ・ミュージックを作ろうとしているからだ。

アルバムからの先行シングル“Wild Love”がジェイムス・ブレイクフランク・オーシャンの影響をもろに感じさせる、オートチューンを多用したメロウなR&Bチューンだった時点で既に驚きだったが、この『エレクトリック・ライト』ではドラム・マシンやサンプラー、シンセサイザーが随所で多用されている。そんな“Wild Love”に加えて、プリンスを彷彿させるセクシーなファルセットが効いたソウル・チューン“In My Head”など、本作ではR&Bやソウル・ポップがもうひとつの軸となっているのだ。髪をばっさり短く切ってビジュアル面でもイメージ・チェンジを図った彼にとって、この変化は意図的なものであったはずだ。

イメージ・チェンジと言えば、セカンド・シングル“Pink Lemonade”のミュージック・ビデオで見せた煌めくスパンコールの衣装も強烈だったし、グラム・ギターとザ・キラーズを彷彿させるゴージャスなシンセのコンビネーションで聞かせる曲自体もセンセーショナルな話題を呼んだ。かつては60年代、70年代のクラシックなロックンロールや、フォーク、カントリーといったルーツ・ミュージックの普遍性を追い求めていた彼だが、本作ではデヴィッド・ボウイやプリンスのように変わり続け、生涯をかけて新たな可能性を開拓し続けたレジェンドにインスパイアされたのだという。


ただし、ジェイムス・ベイの場合は変わり続け、新たな可能性を開拓し続けるモードに突入したからと言って、クラシックなもの、変わらないものを全否定するわけではない。むしろ変わらないとされているものを、そのクラシックな魅力を損なうことなくアップデートするために、彼は変わり、レファレンスを増やしていったということなのだろう。今でも彼のソングライティングの基本はギターであり、リバーブの効いたアンニュイなエレクトロR&Bとギターのハード・リフが融合された“Wasted On Each Other”や、ライブ映え必至の“Just For Tonight”でもそれは証明されている。

いくつもの選択肢の中から、古い/新しい、ロック/ポップの垣根を超えて自由にサウンドを出し入れし、チョイスし、吸収する、その積み重ねによって自身のアーティスト性が自ずと確立されていく、ジェイムス・ベイもそんな新世代のひとりであったことにこの『エレクトリック・ライト』で気づかされる。そして“Us”や“I Found You”のような美しいバラッドが象徴するように、彼の変化はアレンジやプロダクションをいかに変えようとも揺るぎないソングライティングの才能によって、支えられているものなのだ。(粉川しの)
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