今週の一枚 テイラー・スウィフト『1989』

今週の一枚 テイラー・スウィフト『1989』

テイラー・スウィフト
『1989』
日本盤 10月29日発売予定


「初の公式ポップ・アルバム」と今年の夏からテイラー自身が予告してきた通算5作目となる『1989』。テイラーの生まれた年をタイトルに冠し、80年代後半の音楽を追求し尽くした結果とテイラーの変わらぬ資質がみごとに融合し、普遍的ポップ・ミュージックに昇華されている。

マックス・マーティンが全編プロデュースし、マックス・マーティンとシェルバックという『レッド』でもタッグを組んだポップ・シーン最強ソングライティング・チームのバックアップを受けながらも、ただ派手なだけのポップスにはなっていない。それでいて結果的に現在のメインストリーム・ポップ・シーンにおいて決定打となるべき、実にテイラーらしい作品なのだ。

自身の体験を反映しながらもどこかシネマティックでコンセプチュアルな始まりを告げる“Welcome To New York”、あくまでアメリカ西海岸的な退廃的なナンバー“Wildest Dreams”といった楽曲群には、前作『レッド』であまりにも際立ったポップネスに戸惑いを覚えた年長リスナーも心が踊るのではないか。そしてとりわけ素晴らしいのが、ミニマルな音像からテイラーらしい、泣きの歌謡曲のような歌い上げへと発展する“How You Get The Girl”からの終盤だ。

エンターテイメントとは常に書き換えられすぐに使い古され、ポップ・ミュージックは消費される。もともとカントリーの文脈から現れスターへと登りつめたことで、そんなポップの運命を醒めた目で見ていた部分もあったのだろう、ポップスの儚さを知る賢いテイラーだからこそ、この、きらびやかなだけではない80年代というテーマが見事にはまっている。そして、彼女の本来の魅力であるノスタルジックなあたたかみも、そこから透けてみえてくる。

カントリーの世界ではポップ色が強く、ポップの世界ではクラシック色が強い。そんなふうに見られることも多かったテイラー・スウィフト。それは、彼女がどんなメインストリームにおけるシンガー・ソングライター達よりもある意味ロック的に、ひいてはインディ・ポップ的に「はずれ者」だったことを意味するし、テイラー自身が常に疎外感をソングライティングの原動力としてきたことと等しい。アゲるだけではない80sなこの『1989』を聴き、“Shake It Off”でどこかぎこちなさを残しながら楽しそうに踊るテイラーを観て、ああ、テイラーの本質は本当に変わらないのだと痛いほどに思う。
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