今週の一枚 ミューズ『ドローンズ』

今週の一枚 ミューズ『ドローンズ』

ミューズ
『ドローンズ』
6月10日(水)発売

何よりもまず、ギター・ロックであること。語りたい物語、提示したい問題を際限なく盛り込んだコンセプト・アルバムであること。たった3人の力を信じてそれをやりきること。そして結果として生じる過剰を、一切恐れないこと。ミューズのニュー・アルバム『ドローンズ』とは、そんなミューズをミューズたらしめる条件が久々に全て揃ったアルバムだ。彼ら自身が認めるように原点回帰の一枚であり、恐らく彼らのファンが本当に待ち望んだミューズの復活を告げる一枚でもある。

クラシック・ミューズの側面を強化した前々作『ザ・レジスタンス』、ダブステップやエレクトロを大胆に導入した前作『ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則』は、ミューズがミューズらしさから敢えて逸脱し、新たな方向性を模索したアルバムだった。デビュー・アルバム『ショウビズ』から10周年となるタイミングの前後に作られたこの2作品は、今思えば彼らが本作で原点に立ち返る前に必須の「寄り道」だったことがわかる。あらゆる可能性を打ち捨てて、盲目的に自分たちの大原則を信じるのではなく、彼らは寄り道を経てから大原則に立ち返った。この一過程があるかないかでは大違いだと思う。いくつもの選択肢を自ら切り開いた後に、その中から再び選び取られたギター・ロック。だからこそ『ドローンズ』は強いし、迷いがないのだ。

ちなみに『ザ・レジスタンス』と『ザ・セカンド・ロウ』は彼らがセルフ・プロデュースで作った唯二枚の作品だったが、今回は再び外部からプロデューサーを迎えて制作されている。本作のプロデューサーはAC/DCやデフ・レパードを手がけたジョン・“マット”・ラング。つまり完全にラウド&ヘヴィ方面への強化を目指した人選で、特にドミニクのドラムスを筆頭とするリズム隊が一気にビルドアップされている。本作ではマシューのギターも未だかつてないほどド派手に破天荒に駆け巡っているが、一瞬も手綱を緩めないタイトなドラムスによってそれは完全制御され、3人のアンサンブルが一丸となった破壊力が増強されていくのだ。

“サイコ”、“デッド・インサイド”、“リーパーズ”といったナンバーが事前に次々と公開され、ミューズのギター・ロックの大復活を目の当たりにして快哉を叫んだ方も多いと思うが、この『ドローンズ』を最初から最後まで通して聴くと、曲単体での印象とはまた異なる興奮を覚えるはずだ。何故なら本作は完璧な起承転結の構造を擁した一編の物語であり、それぞれのナンバーが物語の中で明確なテーマと役割を担っているコンセプト・アルバムだからだ。

しかも、『ドローンズ』の物語、コンセプトは非常に分かりやすい。「ごめんなさい、もう一回説明してもらえます?」と聞き返したくなった『ザ・セカンド・ロウ』や『ザ・レジスタンス』のそれとは比較にならないくらい、むちゃくちゃ分かりやすい。情報を統制され、抑圧、教化された人類が自我を取り戻していく闘いの物語。ドローンズとの闘いの敗北で幕明ける前半、決起し、死闘と葛藤を繰り広げる中盤、そして革命の凱歌と余韻の終盤と、近年ここまでコンセプト・アルバムであることに腹を括った作品は他にないだろうし、先に書いた迷いのなさは、サウンド、コンセプトの両面において本作を貫く確信になっている。『ドローンズ』はミューズが過去最強のミューズを目指し、突き進み、勝利した一作なのだ。(粉川しの)
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