今週の一枚 ボブ・ディラン『ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ボブ・ディラン』

今週の一枚 ボブ・ディラン『ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ボブ・ディラン』

ボブ・ディラン
『ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ボブ・ディラン』
12月7日(水)発売

10月13日にノーベル文学賞に輝いたボブ・ディラン。しかし、世界中のメディアが競って受賞の結果を報じるこの賞についてボブはただひたすら沈黙を守り、淡々とツアーを続けたため、果ては受賞拒否かと世界的な物議をかもすことにもなった。さらにこのボブのなしのつぶて状態について、文学賞の審査委員が普通の人ならこれを非礼で傲慢だというのかもしれないが相手がボブならしようがないと発言したところ、「審査委員が非礼で傲慢だと批判」と世界中に報道されるという騒ぎにまで過熱。その後28日にはボブから受賞を名誉に思うという連絡が委員会に直接届いたが、その後12月10日に開催される授賞式には先約があるため欠席することが明らかになった。

そんなボブがなぜこの世界的な文学賞を授かることになったのか。その一端をわからせてくれるかもしれないのが、ボブの長いキャリアの軌跡をわかりやすく、かいつまんでまとめてみせた、この『ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ボブ・ディラン』だ。もともとは2013年に通常の1枚組とデラックス盤の2枚組とでリリースされた作品だが、今回2枚組であらためて出し直しとなっていて、それというのも、実にわかりやすいボブの作品世界への入門作品となっているからだ。

特に素晴らしいのは時代の流れを大まかに捉えつつも、リリース年代順にこだわっているわけではないところで、おかげでまずは“Like A Rolling Stone”という必殺ロック・ナンバーで幕を開けることになり、それにフォーク時代の“Blowin' In The Wind”が続くという、ボブの世界へのあまりにも明解な導入となっているからだ。さらによくできているところはこのコンピレーションが一気に近年のボブの作品にまで守備範囲を広げていることで、2012年の『テンペスト』にまで収録曲が及びながらも、新旧の楽曲の取り合わせが特に唐突感を感じさせるわけでもなく、むしろひとつの音源集として聴かせてくれるところなのだ。

たとえば、CD1もCD2もどちらも終盤に向けて今現在のボブの音へと内容が集束していく構成になっているが、たとえばCD1でフォーク時代の“The Times They Are A-Changin’”から終盤のとっかかりとなる『テンペスト』からの“Duquesne Whistle”へと雪崩れ込む展開はひとつのプレイリストとしても非常に刺激的なだけでなく、不思議な連続性も感じさせてくれるという発見もあるのだ。

CD1、CD2と較べるとCD1の方がもともとは通常盤だったのでこちらの方に王道ボブ曲が集中しているが、CD2もファンからすれば紛れもないボブ的名曲が揃ったものになっている。ただ特徴的なのは、文句なしにこれぞボブ・ディランという曲が揃えられている中で、78年の『ストリート・リーガル』、79年の『スロー・トレイン・カミング』、83年の『インフィデル』、89年の『オー・マーシー』などややもすると見過ごされがちなアルバムからの楽曲やサントラ曲なども取り上げられていて、アルバムで聴き慣れているリスナーでも新鮮な構成になっていることだ。

さらに国内盤にはあらためて歌詞の聴きどころ(読みどころ)ともなるポイントも抜き出した歌詞ブックレットもついているので、関係性や世界の有様、あるいは不思議な叙事詩などと変幻自在なボブの歌の世界にも入りやすくなっている。

ボブは数年前からノーベル文学賞候補に名前が挙がるようになってはいたが、もちろんこのコンピレーションはもともとノーベル賞受賞アーティストとしてのボブの解説作品として企画されたものではない。しかし、これだけボブの魅力がわかりやすいコンピレーションがたまたま13年に用意されていたということは、それだけボブの活動全般が見直されるべきタイミングを迎えつつあったということで、ノーベル賞受賞もそういう出来事のひとつだったのかもしれない。(高見展)
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