今週の一枚 ウィルコ『スター・ウォーズ』

今週の一枚 ウィルコ『スター・ウォーズ』

ウィルコ
『スター・ウォーズ』
10月7日(水)発売

今年7月に突如無料配信され、話題を集めたウィルコの4年ぶり~通算9枚目のオリジナル・アルバム。再び目覚めた某SF大作へのオマージュ?と勘ぐりたくなるタイトル(註:同映画とは無関係だそうです)とそれとは脈絡のないヘタウマ・アート調の猫ちゃんも含め、色々な意味で人を食ったリリースには驚かされた。00年代アメリカン・オルタナのプレミア・アクトのひとつとして愛される彼らですら、こうした一種の「メディア・スタント」が必要な時代なのだろうか?──が、前作『ザ・ホール・ラヴ』で自らのレーベルを立ち上げたスタンス、そして昨年暮れに結成20周年記念として初のベスト盤&レア楽曲集を発表したタイミングを考えるに、これは杞憂だろう。むしろひとつのフェーズを終え、クリエイティヴ面での自由と選択肢を手にしたバンドによる新たな門出を祝福する1枚であり、だからこそファンとシェアする形で発表された。そのポジでアップな勢いはけたたましく吹っ切れたイントロを筆頭に、前2作に較べアップテンポでグルーヴの効いた曲やグラム調ロック(Tレックスからブルー・オイスター・カルトまで)が大半を占め、面相筆ではなく刷毛としてエレキが活躍する作風からもうかがえる。M2、3、4でスモーク・マシーンもかくやとノイズの煙幕を張る(おそらく)ネルス・クラインのギター、聴くたび「ライヴで体験したい!」と悶絶してしまう。

もっとも、ガレージ・バンド~バー・バンドとして始まったウィルコの遺伝子には常にこうした「ロックンロールの快」があった。その意味で本作の、特に前半は精神面でルーツ回帰志向を感じるものの、結果として『A.M.』や『ビーイング・ゼア』とはまったく異なる、奇妙にバロックなロックが生まれているのは面白い。鼻づまり?と錯覚させられるフィルターやファルセットといったヴォーカル面の新味、テルミン他のスペイシーでシュールな質感の数々。定型を規範にしながらそこをラディカルかつやんちゃにハミ出していく様は、ルース・ファーと『ヤンキー~』以降このバンドが培ってきた柔軟なケミストリーをこれまでとはひと味違う視点から提示してみせる。と同時に、アルバムのハイライトと言える圧巻のM5やM6のジェントルなメロディ、胸が詰まる愛情が直裁に(M8)、あるいは抽象的に(M11)吐き出される瞬間をはじめ、聴き手がそっと寄り添える情感豊かな本質もきちんと備えている。トータル約34分とこれまででもっとも短い作品ながら、魅力と新たなポテンシャルとを見事に凝縮したこの頼もしい1枚によって、ウィルコは30年目に踏み出してみせた。幸あれ。(坂本麻里子)
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