平熱の美学をまとった、インディ最新系耽美主義者ーードライ・クリーニングの新たな飛翔に迫る

平熱の美学をまとった、インディ最新系耽美主義者ーードライ・クリーニングの新たな飛翔に迫る

クセになるフック、合唱できるサビ、エモーションの高まりから決壊へと至るカタルシス、目を奪うカリスマ性——そうした「熱しやすく過剰」な現在のカルチャーのドラマ力学から距離を置いたまま、ドライ・クリーニングはインディ界に独自のニッチを築いてきた。

フローレンス・ショウの体温の低そうなトーキングシンギングを軸に、バンドはタイトなアンサンブルを繰り広げる。おもねらない、突き放したようなプレゼンぶりと日常のシュルレアリズムが形成する不思議な磁場を通じ、いわば引きの美学で音楽ファンを魅了してきたのだから面白い。

その背景には、アルバムデビューがパンデミックと被ったことで、このバンドには「アルバムを出し、がっちりツアー」の通常ルートを取れなかった不可避な事情もあると思う。ゆえに、高評価を得たファースト『ニュー・ロング・レッグ』(21年)からセカンド『スタンプワーク』(22年)へ一気に畳み掛けることになったわけだが、久々となる新作『シークレット・ラヴ』は長期ツアーを始めとする数々の経験/露出/交流を反映した素晴らしい成長作になっている。

前2作で組んだジョン・パリッシュ(PJハーヴェイ、オルダス・ハーディング他)に続き、今回は新たに俊英ケイト・ル・ボン(ウィルコ、ホースガール他)を起用。自作を自らプロデュースする例を除くと、女性プロデューサーはいまだに希少だ。

その中でも際立った存在であるル・ボンとの顔合せだけでも快哉を叫んでしまうし、更にウィルコのスタジオ=ザ・ロフトを始め各地のスタジオでセッションを重ねつつ、バンドは楽曲を練っていった。

前作で既にスタイルの幅や音のパレットの拡張に挑んでいたとはいえ、今作でそれらは試走のレベルを超え、より有機的かつ立体的にドライ・クリーニング空間に溶け込んでいる。揺るぎないアイデンティティを備えた彼らが、スタジオでの技を磨いたのだからこれは鬼に金棒。先行公開曲“ヒット・マイ・ヘッド・オール・デイ”のダークなオーラを浴びるだけでもトータル力の増幅が伝わってくる。

年明け早々にドロップされるアルバムで、ぜひその真価/進化を味わってほしい!(坂本麻里子)



ドライ・クリーニングの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

平熱の美学をまとった、インディ最新系耽美主義者ーードライ・クリーニングの新たな飛翔に迫る
rockin'on 編集部日記の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on