【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!

【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!

【2回目のロキソニいよいよ始まる!】


本誌発売時点で1ヶ月後に迫ってきた「rockin’on sonic 2026」。全出演アーティストとタイムテーブルも発表され、いよいよ気分も高まってきた。2回目となる今回のロキソニには、ペット・ショップ・ボーイズ、アンダーワールドを筆頭に強力なアーティストが集結、さらに第2回にして初の邦楽アーティストとしてずっと真夜中でいいのに。の参戦も決定した。1980年代や90年代から支持を集め続けるビッグネームから気鋭のアクト、さらに本フェス初となる邦楽アーティストまで、世代を超えた面々がずらりと顔をそろえたエッセンシャルなラインナップがいったいどんな一日を生み出すのか。今から年明けが楽しみでならない。

今年1月に開催された第1回は、ウィーザー、パルプをはじめとした豪華な出演アーティスト陣はもちろん、日本最大の年末フェス「COUNTDOWN JAPAN」のインフラを活用した会場の利便性も参加者から高い評価を得た。洋楽ファンのど真ん中を射抜くようなブッキングに、ライブはもちろん物販も飲食もストレスなく楽しめる快適性。これまでの洋楽フェスとはまったく異なる体験をもたらすこのフェスの特徴は今回も健在だ。今回は会場スケジュールの事情もあり1月4日(日)一日のみの開催となったが、そのぶん「濃い」ものになることは間違いないだろう。

前回もそうだったが、個人的にこのフェスの最大の魅力は「出会い」の可能性が最大化されているということだと思っている。お目当てのアーティストではないアクトと予期せぬ出会いをしてハマる、というのはロキソニにかぎらずフェスやイベントの醍醐味だが、コンパクトにまとまったステージの配置、シームレスに移動できる動線、すべてのライブを観ることのできるタイムテーブルといったロキソニの強みは、その醍醐味を存分に味わえるものになっているのだ。

もちろん、世界的な評価を得ているグレイテストヒッツツアー「ドリームワールド:グレイテスト・ヒッツ・ライヴ」のコンセプトを持ってくるペット・ショップ・ボーイズと、昨年のアルバム『Strawberry Hotel』とともに新たな充実期に突入しているアンダーワールドという、レジェンドアーティストの圧巻のステージは必見だが、それ以外のラインナップも絶対に見逃せないアクトばかり。90年代から現在に至るまでコンスタントに活動を続けUKでは圧倒的な人気を誇るトラヴィスに、今や現在のシーンを代表するバンドへと成長を遂げたウルフ・アリス。グッドメロディと人懐っこいサウンドがインディファンに愛され続けているブロッサムズの久しぶりの来日に、ニーキャップ、ジャスト・マスタードの日本初ライブ。ヒップホップにシューゲイザー、ギターロックにエレポップ。幅広いジャンルのアーティストが集まったが、だからこそ、ここでしか生まれ得ない物語がある。そしてそのなかに、日本の音楽シーンにおいてオリジナルで実験的なアートフォームと強力なポップスの両面を高いレベルで実現し続けているずっと真夜中でいいのに。がいることの意義はとても大きい。

今回で第2回、つまり「rockin’on sonic」はまだその歴史を刻み始めたばかりだ。新しいコンセプトをもったこの都市型フェスがどんな未来を作っていくのかは、大げさにいえば今回の参加者ひとりひとりにかかっている。大いに期待して、1月4日、幕張メッセに集まってもらえればと思う。(小川智宏)

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【rockin'on sonic 2026 全アーティスト紹介】

●PET SHOP BOYS

【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!
今回のrockin’on sonicの出演アーティストが発表されたとき、ペット・ショップ・ボーイズの名前を見つけて歓喜した。しかも『ドリームワールド:グレイテスト・ヒッツ・ライヴ』のショー。2022年から世界各国を巡り、文字通りシングルヒット曲をふんだんに盛り込んだセットリストで魅せるまさに夢のようなツアーが、ようやく日本でも観られる日がやってくる。このツアーが行われていた当時、特にヨーロッパなどは大絶賛で、メディアでの評価もすこぶる高かったこともあり、観たい気持ちがマックスに高まっていた。そんななか、2024年初頭、このライブを劇場で観る機会が訪れた。2023年7月7日にコペンハーゲンのロイヤル・アリーナで行われたこのライブが、デヴィッド・バーナード監督の手により映像化され、世界各国の映画館で上映されたのだ。日本でも短期間ではあったがスクリーンで観ることができた。とにかく圧巻。完璧にショーアップされたライブは、ヒット曲の懐かしさに浸るというよりは、PSBの楽曲の永遠とも思える普遍性をはっきりと確認するものだった。“サバービア”での鮮烈な幕開け。デビュー40周年を迎えたPSBが、デビュー当時の曲をかくも颯爽とクールにパフォームしている! まだコロナ禍が訪れる前、2019年の日本武道館での来日公演でもそのショーの完璧さ、時の流れを超えた衰えなしの歌の魅力に触れてはいたものの、『ドリームワールド〜』の構成、流れは格別だ。ニール・テナントの変わらぬ哀愁を帯びた歌声、クリス・ロウの超然とした佇まい、そして次々と繰り出される、誰もがすぐに口ずさんでしまうヒット曲の数々。映画館で観て、やはりこれはライブで体感したかったと思うのも必然だった。そして、その機会がもうすぐ訪れるのである。

PSBのライブは大規模なインスタレーションのようでもあり、アートとして鑑賞する価値も高い。そのファンタスティックな空間で誰もが知っている“ニューヨーク・シティ・ボーイ”を、“ゴー・ウエスト”を、“哀しみの天使”を、そして“ウエスト・エンド・ガールズ”を、思い切り合唱できるのだ。最高の景色が約束されている。そういえばこの『ドリームワールド〜』ツアーでは、1991年のリリース後にボノを激昂させたというU2の“ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム(約束の地)”のカバーもしっかり演奏していた。重くシリアスなテーマを孕むU2の楽曲を、あまつさえ“君の瞳に恋してる”とミックスした形でエレクトロニックなダンスポップに変換してみせたPSBの確信的な「軽さ」は、そこにこそメッセージがあるということを示唆していた。このしなやかな軽さがあるからこそ、国籍や性別や年齢や職業といった様々な属性を超えて、ボーダーレスに歌い継がれていくポップミュージックとなり得るのだ。実際、PSBのオリジナル楽曲はその歌詞を追うと、社会風刺や批評性に富んだものが多いことに気付かされる。だからこそ、このあえての「軽さ」がたまらなく切なく思える瞬間があるのだ。

最後にこの『ドリームワールド〜』の見どころのひとつとして、2022年からPSBのライブに参加している、英国在住の日本人アーティスト、内間くれあの存在を挙げておきたい。ライブでは“とどかぬ想い”のダスティ・スプリングフィールドのパートを軽やかに歌い上げていた。rockin’on sonicでもニールとのデュエットを聴かせてくれるだろうか。その凱旋的なパフォーマンスもとても楽しみにしている。(杉浦美恵)

●UNDERWORLD

【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!
もし今年、rockin’on sonicが2日間の開催であったなら、アンダーワールドはペット・ショップ・ボーイズと並んで、間違いなくフェスのトリを飾っていたはず。しかし結果的にその両陣を続けて体感できる一夜となったことはまさにミラクル。しかも2025年は“ボーン・スリッピー:ナックス”(以下、“ボーン・スリッピー”と略記)リリースから30周年という、アンダーワールドにとって記念すべき年だ。言わずもがなの時代を超えたこの大ダンスアンセムが、格別な祝祭感を伴って新年の幕張を揺らすことだろう。

アンダーワールドのテクノサウンドは、振り返ればビートの革新だった。 “ボーン・スリッピー”は派手なうわ物が鳴るわけではなく、ビートの緻密なミックスとカール・ハイドの読経のような歌(それさえもリズム楽器のよう)がダンスへの没入をかりたて、その先に待ち受けるシンセコードが甘美な解放の時を告げる。このダンスミュージックの在り方は、その楽曲の革新性とは逆にとてもプリミティブだった。だからこそ、30年を経たいまも、一大アンセムとして機能し続けるのではないか。もう長いこと、アンダーワールドのライブやフェスでのセットでは常にラストのクライマックスを飾る楽曲として定着しているし、おそらく、rockin’on sonicでもそれは間違いないはず。直近の来日公演でいえば、2024年のSONICMANIA、サマーソニックでもそれは揺るぎなかった。この“ボーン・スリッピー”の大ブレイクは、1996年公開の映画『トレインスポッティング』ラストシーンでの楽曲起用が後押ししたのは言うまでもないが、フェスやレイヴにおいてこの曲が絶対的なアンセムと化していったのには、特に日本では2000年にリリースしたライブ音源(およびライブ映像作品)『エヴリシング・エヴリシング』の存在(作品制作途中にダレン・エマーソンの脱退もあったが)が大きかったと思う。1999年のフジロック初出演時の鮮烈なライブをそのままパッケージしたような生々しい音像、その多幸感は格別で、オリジナル音源よりもそちらを好んで聴く向きも多かった。アンダーワールドのブレイクは、日本においてもロックファンの耳をエレクトロやテクノに向けさせ、シーンの裾野を広げることにもつながった。そして、その後も現在に至るまで世代を超えて世界中を踊らせ続け、ロックフェスでもレイブでも、常にヘッドライナーとしての期待に応えてきた。2度目の出演となった2003年のフジロックではヘッドライナーとしてグリーンステージに立ち、 “ボーン・スリッピー”で多幸感溢れるエンディングを演出してくれたことを思い出す。近年もさほど間を置くことなくコンスタントに来日して、リップサービス込みとはいえ「日本は第2のホーム」とまで言ってくれたり、アンダーワールドにとっても日本は特別な場所となっているのが嬉しい。

rockin’on sonicでも最高のセトリで踊らせてくれることは間違いない。“ボーン・スリッピー”のみならず、“レズ”、“カウガール”、“トゥー・マンス・オフ”など、アンセム級楽曲は数多。さらには、2024年にリリースした最新アルバム『Strawberry Hotel』からの楽曲にも期待。2024年のSONICMANIAやサマソニではいち早く披露された“denver luna”や “and the color red”も素晴らしかった。そして何より “Techno Shinkansen”! これをまた日本で聴けるかと思うと(やってくれますよね?)胸が躍る。(杉浦美恵)

●ずっと真夜中でいいのに。

【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!
rockin’on sonicのアーティスト発表でずっと真夜中でいいのに。の参加がアナウンスされたとき、SNSでは様々なリアクションが飛び交うのを目の当たりにした。洋楽フェスと銘打って2回目の開催を迎えようとしている、しかも一日2ステージの限られたスロットの中に今をときめく日本の気鋭アーティストが加わっているのだから、複雑な思いを抱く人がいるのは当然だろう。プロデューサー山崎洋一郎からのメッセージではずとまよへの出演オファーに関する説明が大きくフィーチャーされ、またずとまよの中核を担うACAねも、普段は洋楽への親しみが少ないリスナーや熱心な洋楽リスナーと向き合うチャレンジングな姿勢を表明している。一方で、「これはおもしろい!」と沸き立った人(他でもない僕自身がそうだが)も少なくないと思う。その具体的な理由については後述したい。

ずっと真夜中でいいのに。は、作詞・作曲・歌唱を担うACAねを中心に、レコーディングやライブの参加メンバーに柔軟な流動性を持たせたプロジェクトだ。2018年にデビュー曲“秒針を噛む”のアニメ仕立てMVが注目を集め、同年メジャーデビュー。これまでにミニアルバム5作とフルアルバム3作(これらが活動のフェーズを形成してゆくようなリリース形態もおもしろい)を発表し、テレビ番組や映画作品のテーマ曲も数多く手掛けている。ライブ動員数は増加の一途を辿り、特にパンデミック後の2022年からはホール〜アリーナ規模の公演が当たり前になったが、敢えてコンセプチュアルな少人数編成のステージに臨むこともある。さすがにフェス出演時の実現は難しいものの、テーマに基づいてACAねの内面世界を具現化したような、大掛かりで漫画チックなまでに幻想的な視界のステージセットはライブ参加者の度肝を抜くことになる。思わずライブ収益の採算を心配してしまうほどだ。ペット・ショップ・ボーイズやアンダーワールドと同様、ずとまよをGALAXY STAGEの規模感で観ることができるのは今や貴重な機会であり、現にCOUNTDOWN JAPAN 25/26の最終日に当たる大晦日、ずとまよはより大規模なEARTH STAGEへの出演を予定している。

インターネットの片隅から登場したずとまよは、なぜ僅か数年の間にこれほど大きな存在となったか。それはひとえに、実験性と大衆性を綱渡りしてゆく音楽パフォーマンスのユニークさと熱狂によるものだ。ギター、ベース、ドラムス、キーボードといった一般的編成に加え、盟友と呼ぶべきOpen Reel Ensembleによる改造オープンリール演奏、そしてOREの和田永が主宰するエレクトロニコス・ファンタスティコス!からは、ブラウン菅ドラムや扇風琴など、古い家電製品を再利用制作した電磁楽器の数々が持ち込まれる。ホーン隊やストリングス隊、ときには二胡奏者なども加わる大所帯アンサンブルは、ロックやファンク、ジャズ、アバンギャルドを横断する凄まじいサウンドと視界をもたらす。

そんな混沌とした演奏を統率し、類稀なソングライティングと壊れそうなほどに危うくもしなやかな美声で牽引してゆくのが、中核人物のACAねだ。ガラパゴス音楽文化の歴史を引き摺る邦楽ポップとも、グローバリズム輸入音楽の模倣ともまったく違う、言わばハイパーポップ的価値観を独創的なバンド演奏で提示する若きカリスマ。そんなACAねとずとまよが「洋楽フェス」で何を見せてくれるのか。ワクワクする根拠はそこにあるのだ。(小池宏和)

●KNEECAP

【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!
ドラッグディーリングと政治闘争が激突! ガラの悪いリズムトラックは弾丸のように一直線に進みつづけ、アイルランド語と英語をまぜこぜにしたラップでハードライフが弾け飛ぶ。それは興奮と誠実さの両方を求めるオーディエンスを巻き込んで、やがて国境を越えていく。

ニーキャップは2017年に結成された北アイルランドの三人組。本人たちが出演している半自伝的映画『KNEECAP/ニーキャップ』は、彼らの魅力をなによりも巧みに伝えた。ドラッグディーラーとして先の見えない生活を続ける若者二人と、冴えない日々を送る中年の学校教師。彼らの出会いは音楽という弾丸を生み出し、三人はモ・カラ、モウグリ・バップ、DJプロヴィという新たな名を得る。家族の問題、恋愛の問題、労働の問題。それをすべて包み込む政治の問題に直面する三人の青春を刻み込んだこの劇映画によって、彼らの物語はより親密に人々に届いた。アイルランドナショナリズムを誇るだけでなく、潔癖さしか許さない体制の空気と戦うその姿が、人々のハートを貫いた。 

《家賃の代わりにケタミンの袋を手にした》、《お前とパーティーに行って、エクスタシーを喰いたいんだ》。デビューシングル“C.E.A.R.T.A”はアイルランド語でラップされる過激な薬物表現が問題視され、検閲の対象としてアイルランドの公共ラジオで放送禁止に。しかし、それに対する抗議の署名運動も起き、ニーキャップの名は広がる。若者の現実をダーティーに描き出す詩人の言葉は、人々の心を焚きつけたのだ。

ザ・ストリーツやスリーフォード・モッズなど、路上の混沌を表現してきたイングランドのラッパーたちの系譜を受け継ぎつつ、北アイルランド出身であるローカル性を発揮するニーキャップ。TR-808を駆使したシンプルなトラックでギリギリの毎日をユーモラスに描き出すラップスタイルは、最近のUSやUKのラップミュージックと違う位相で鳴っている。それは、彼らの表現が政治闘争から立ち上がったことと深く関係している。日々繰り返される生活と、政治的な変動。その間で揺れ続ける人間の実存にここまで直結している音楽は、他に類を見ないからだ。生活と政治が近すぎる場から出てきた表現という点で、彼らは特異な場所にいるのだ。

それ故に彼らはライブでも政治性を前面に押し出しており、イスラエル・パレスチナ問題についても積極的に表現している。2025年に出演したコーチェラ・フェスティバルでは、イスラエルの行為をジェノサイドだと断じるメッセージをステージに表示。重要なのはメッセージの内容だけでなく、彼らがリスクを取っていることだろう。実際に何度も批判を浴び、テロ関連の罪で起訴もされている。リスクを取ってステージで表現することは、同じ「フリー・パレスチナ」だとしてもSNSのワンポストとは重さも影響力も異なる。劇映画というメディアも積極的に活用できた彼らは、ライブの場がどのように機能するかも十分に意識しているはずだ。

そうしたメディア的知性と人々と共に楽しもうとするパーティー精神が合致するから、ニーキャップのライブは熱を帯びる。モ・カラとモウグリ・バップのラップが、誠実なユーモアとしてオーディエンスを撃ち抜く。DJプロヴィのサウンドが、本当の自由とはなにかを問いかける。今回のrockin’on sonicでの初来日公演では、闘争と享楽の両方を併せ持つ彼らの躍動が、目の前で確かめられるはずだ。(伏見瞬)

●TRAVIS

【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!
オアシス・フィーバーが世界的に吹き荒れた2025年は、90年代懐古も頂点に達した年だったかもしれない——そんなタイミングで、暦がめくれて早々にrockin’on sonicで「グラスゴーからの音の抱擁」=トラヴィスが約3年3ヶ月ぶりの来日を果たすのは実にジャストだ。

1997年のデビュー作こそ当時のやんちゃな時代精神/シーンを直で反映していたとはいえ、ナイジェル・ゴドリッチを迎えた2nd『ザ・マン・フー』で彼らは奇跡的な飛躍を果たした。内面性豊かでモダンに細やかな音作りとメランコリックな美メロとの綾織りによって、「ポストブリットポップ」の指標を打ち立てた名盤だ(その航跡に浮上したのが00年代の覇者=コールドプレイだった、と言っても過言ではない)。スリーパーヒット化した同作のブレイクのきっかけとなった明るいトーンのアンセミックな歌で、しかしフラン・ヒーリーは《なんで僕はいつも雨降りなんだろう?/青空はどこだろう、寒いよ》と悩みつつ問いかける。威勢のいいお兄ちゃんたちは、こうした出口なしの不安や疎外感をなかなか認めないものだ。実際、彼らは当時の英メディアからは「弱虫」と揶揄されたわけだが、病める内面をすっぱりと明かす勇気を持っていたトラヴィスは、聴き手と深くソウルフルな絆を結んでいくことになった。その信頼感こそ、彼らの長命ぶりの所以ではないかと思う。

前回の来日公演は3rd『インヴィジブル・バンド』アニバーサリーがテーマだったが、ロキソニでは彼らの本来の持ち味と新機軸へ飽くなきチャレンジ精神とが上手く噛み合った、充実の最新作『L.A. Times』からの楽曲も披露してくれることだろう。現在に至るまで不動のラインナップが固まってから既に30余年。その間に4人はキャリア/パーソナル両面で様々な浮き沈みを味わってきたし、現在のフランは真っ赤に染めたとんがらし髪(『IT』のペニーワイズかいな:笑)がひょうきんなトレードマークになっている。リアルタイム世代が旧友と再会し心を温め合う素敵な場になるのは言うまでもないが、トラヴィスの音楽に備わった懐深い「翼」の揚力を、若い世代にも味わってもらいたいと思う。不朽の名曲“ターン”の切ない希望に満ちたメロディと歌詞は、今の時代と世界にこそ胸に強く沁みるはずだから。(坂本麻里子)

●WOLF ALICE

【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!
ここに来てキャリアの全盛期を迎えていると言っても過言ではないウルフ・アリス。今年のグラストンベリーに出演した際、NMEは「その能力が最高潮に達した、驚異的なバンド」とこれまでで最大規模となるステージですばらしいパフォーマンスを披露したと絶賛。ウルフ・アリスが面白いのは、単にパフォーマンス力が上がっているというだけではなく、楽曲、MV、ライブという全てが連動し新たな世界観へと突入している点にある。楽曲はどんどん音圧が高まり重量感も増加、メタル風の泣きのギターすら披露されるように。それにあわせて、MVもキラキラしたグラム風へと変化してきた。そしてライブでは、骨太な演奏とともにアリーナ規模で視覚演出を強化していく方向へと舵を切っている。その中心となる役割を担っているのが、ボーカルのエリー・ロウゼルだ。時にはグラム風レオタードに赤いホットパンツをあわせて、ステージ上の身体性を強烈にアップデートしてきた。先のグラストンベリーのステージでも、メガホンで絶叫しステージを動き回り盛り上げるようなパフォーマンスを見せ、とにかくエネルギッシュ。と思ったら、同じステージ上で微動だにせず歌う祈りのモードが突然訪れたりと、ライブ中に複数の人格を瞬間的にスイッチさせる。もはやライブというよりも舞台芸術やパフォーマンスアートに立ち会っているような感覚を覚える刺激的な表現は、エリー・ロウゼルの身体が、ライブ演出の中心装置になったようなカリスマ性を放っている。

そもそも、なぜウルフ・アリスはそれほどまでのラディカルな変化を遂げたのだろうか? ドラマーのジョエル・エイミーが「To Doリストは、5年前くらいにほぼ全部“済”がついた」と発言している通り、数々の音楽賞を受賞し高い評価を得てきた中で、バンドは次のフェーズへと駒を進めたいと考えていた。そういった中で、レコード会社も、ダーティ・ヒットを離脱しコロムビアへと移籍。より世界を意識したスケールへと脱皮していくことになったのだ。現在のウルフ・アリスは、英国ロックが持つ謙虚さの美学のようなところから抜け出し、アリーナ規模のステージ設計を実現する巨大なグローバルバンドになったのである。世界制覇を視野に入れ、大胆なイメージチェンジを図った4人の、強烈なステージをぜひ見届けたい。 (つやちゃん)

●BLOSSOMS

【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!
COSMO STAGEの二番手にはマンチェスター出身の人気者、ブロッサムズが出演! 今回のrockin’on sonicのラインアップのなかでも、彼らはキーになるアクトと言えるのではないだろうか。というのは、ロックとダンスをあくまでポップな領域でミックスするブロッサムズは、今回の大物アクトであるペット・ショップ・ボーイズやアンダーワールドがそうであるように、ライブパフォーマンスの現場でオーディエンスを思いきり踊らせることができる存在だからだ。しかも、ブロッサムズの場合はあくまでギターバンドなので、インディロックリスナーとダンスアクトの架け橋にもなりそうだ。

そもそも、ブロッサムズはイギリスでポップやラップが強かった10年代なかばにデビューしていきなりチャートを席巻したギターバンドだった。2016年の1st『ブロッサムズ』がそれまでにリリースしてきたシングル8枚を収録した上で1位を獲得した事実は、彼らがいかに登場時からキャッチーな存在感を放っていたかを物語っている。同作リリース後には単独来日公演も実現し、新人ながらライブバンドとしての実力も証明してみせた。

しかも、ブロッサムズはそんなデビュー時の勢いだけで息切れすることなく、それから活動を続けるなかで着実に成長してきたバンドでもある。もともとインディギターロックやエレクトロポップ、サイケといった多彩なサウンドを横断できることが彼らの売りであったわけだが、アルバムごとに確実にその幅を広げてきた。それだけ多方面へのアプローチができるというのも、核となるソングライティングがしっかりしているからだ。どんなアレンジになろうとも、楽曲のフレンドリーさはつねにブロッサムズの魅力である。

現時点での最新作、昨年リリースされた『Gary』はかなり潔くダンス寄りに振ったアルバムで、キラキラしたシンセもあって華やかな印象を放つ一枚だ。そしてもちろん、とにかくポップ。レトロなディスコ調の“Nightclub”などグルーヴィーな曲も、フック満載のメロディが必ず中心にある。これはライブが盛り上がりそうだぞ、と思っていたら、実際、最新ツアーでは新曲群がアンセム化しているようで頼もしい限り。日本でのライブも久しぶりなので、ひと回り大きくなったブロッサムズで踊りまくろう。(木津毅)

●JUST MUSTARD

【全出演アクト解説】「rockin’on sonic 2026」開催目前――全アーティストのライブの見どころ解説で、ロキソニを完全攻略!
ダークなノイズと恍惚としたダンスが手を繋ぐ——そんな今極めてリアルなロックを体感したくはないだろうか。ならば今度のロキソニ、前日はしっかり早く寝て、初っ端から観に行くべきだ。COSMO STAGEのトップバッターを務める、アイルランドのダンドークで結成された5人組ジャスト・マスタード。2015年に結成された彼らは、これまでにロバート・スミス直々の指名でザ・キュアーのサポートも務めた経験も持つ大注目アクト。今年はそのスケール感を飛躍的に大きくした傑作3rdアルバム『ウィ・ワー・ジャスト・ヒア』もリリースしており(レーベルは、ギースの『ゲッティング・キルド』も出しているパルチザン・レコーズ)、「今、絶対に観るべき!」と断言できる一組なのだ。

深く重厚な低音を奏でるRob Clarke(B)と、静と動をしなやかに行き来するShane Maguire(Dr)から成るリズムセクション。ヒリヒリとした緊張感を持ちながら、ときに凶暴に、ときに夢見心地に空間を染めるDavid Noonan(G)とMete Kalyoncuoğlu(G)の固定観念を覆すツインギター。ステージの真ん中で絶対的な存在感を放ち、儚くも凛とした強さを感じさせる歌声を披露するKatie Ball(Vo)。この5人が奏でるサウンドは、シューゲイザーやトリップホップ、インダストリアルやアンビエント、ポストパンクなど様々なエッセンスを独自のバランス感覚とデザイン感覚で身体化したオリジナリティあふれるもの。しかも1stアルバム『ウェンズデイ』(2018年)と2nd『ハート・アンダー』(2022年)では内省的な世界観として奏でられていたそのサウンドは、新作『ウィ・ワー・ジャスト・ヒア』で、さらなる肉体性と多幸感あふれるダンスフィーリングをも獲得している。まるでモノクロームの世界と極彩色の世界が、それぞれの色彩を損なうことなく混ざり合っている……そんな「陰鬱なのにアッパー」なジャスト・マスタードの音楽世界は、甘い誘惑に揺らぐことなく、自分たちの絶望と希望をしっかりと握り締めて「今」という時代と現実をサバイブしようとする新世代のリアルな心象の表れなのだと思う。間違いなく、今観るべきバンドである。年明け、Katie Ballはどんな眼差しでステージに立っているだろうか。(天野史彬)



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