現在発売中のロッキング・オン1月号では、オアシスの来日公演レポートを掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。
文=粉川しの
洋楽ロックシーンにおいて数年に一度、いや、10年、20年に一度の巨大イベントとなった、オアシス再結成ライブ「Oasis Live ‘25」。単なる規模感の面で言えば、これを凌ぐ来日は他にもあっただろうが、カルチャーインパクト、長期的な話題性、そして彼らが今後の洋楽ロックの受容にもたらす変化は、滅多にないレベルに達したと言っていい。オアシス再結成という名の祭りは1年以上にわたって続き、彼らは繰り返し聴かれ、語られ、買われ、東京ドーム2公演を終えた今なお熱狂の余韻は続いている。さらに「来年はネブワース30周年? ヨーロッパツアー?」との噂も飛び交い、どうやら祭りは再び年を跨ぐことになりそうだ。
オアシスを長年聴いてきたファンとしても、ノエルとリアムに取材し続けてきたジャーナリストとしても、オアシス再結成は彼らと再び向き合うきっかけになり、この1年間で何度もオアシスについて書き、語る機会を得ることになった。オアシスを「知っている」者として私はオアシスを書き、語り続けてきたわけだが、そこで気づいたことがあった。それはオアシス再結成とは、私たちが「知らない」オアシスに出会うきっかけでもある、ということだ。90年代の彼らとも、2000年代の彼らとも違う、全く新しいレベルのオアシスが、自らの伝説を更新していく場であったということだ。オアシスは復活しただけではない、新しいオアシスとして生まれ変わったのだ。
バンドの再結成は得てしてご祝儀的な盛り上がりを見せるものだが、再結成オアシスの盛り上がりは、往年のファンがご祝儀袋を持ってきただけでは到達しえない凄まじいものだった。全キャリアを通してみても、今の彼らは間違いなく94年〜96年に並ぶ第二の黄金期にある。そもそもオアシスは全オリジナルアルバムが全英1位と、本国では国民的バンドとして不動の地位を確立しつつも、アメリカでは『モーニング・グローリー』で最大瞬間風速を記録したのを最後に、人気は落ち着いていったし、日本でもフジロック、サマーソニックでヘッドライナーを務めるトップバンドとは言え、過去の単独公演は最大でも1万、2万人規模だった。オアシスはUKローカルとグローバルで差のあったバンドの一つであり、だからこそスタジアムを回るワールドツアーは、今回が初めてだった。身も蓋もなく言えば、こんなにも人気があるなんて、思っていなかったのだ。オアシスを超えたオアシス現象としての「〜Live ‘25」。彼らの解散から16年を経て、一体どうしてこんなことが可能だったのだろう。
昨年8月の再結成の発表から始まった「オアシスを超えたオアシス現象」は、即時性と持続性の両方において、彼らの過去に類を見ない上昇曲線を描いていった。再結成の報は全く時差なくSNSを席巻し、ツアー初日のカーディフ公演の終演5分後には、ノエルとリアムがハグする瞬間の映像が世界を駆け巡っていた。過去にオアシスにまつわるイベントで、こんなスピードを感じたことはなかったわけだが、それは彼らが2009年に解散したことと無関係ではないだろう。オアシスは、全てがSNSを通してバイラル化する時代の到来直前に、Spotifyの普及前に、TikTokの誕生前にいなくなったバンドだった。2000年代の日本の洋楽公演ではスマホ撮影は一般的ではなかったし、アップする先のTwitterも未だ殆ど誰も使っていない、そんな時代のバンドだったのだ。
だから、再結成によって生じたブームの驚異的な即時性と持続性は、オアシスという前時代の普遍的バンドが、オンラインのインタラクティブなコミュニケーションに初本格コミットしたらどうなるか?という社会実験の産物でもあった。その結果、見事にハマって全てが急に回り始め、これまで見えなかった若いファンの存在が浮上し、ホットな伝説のバンドとして、再び語られ始めている。また、即時性は主にオンラインが理由だが、持続性の種はノエルとリアムのソロ活動によって蒔かれ、ノエルのソロが新たなリスナー層を獲得し、リアムのソロがファンを若返らせるのに寄与したことで、見事大輪の花を咲かせるに至ったものだ。
オアシスの再結成がいつ、どのように決まったのかは分からない。今となっては意外に長期的なプランだったような気もするのだが、一つ確かなことがあるとすれば、オアシスが再結成するとしたら、2024年しかあり得なかったということだ。『Definitely Maybe』の30周年より再結成に相応しいアニバーサリーは存在しないし、40周年だと流石に年齢的に厳しく、20周年だとリアムがズタボロで難しかったはずだ。そんな、絶対に外せない再結成のタイミングに向けて、オアシスは周到に準備を重ねていたと感じる。実際、たった一度のフォトセッションで得た最新素材を使い回し、インタビューは一切受けず、「テレビ放映されることはないから、ぜひ観にきてくれ」とメッセージを残す、再結成オアシスの希少性、伝説性を高める戦略は見事に当たった。その一方ではSNSを介したきめ細やかな発信を続け、未だかつてないほど巨大なファンコミュニティを纏めあげていった。
2020年代も半ばに入り、今更オアシスTシャツが爆発的に売れるなんていう、俄には信じられない現象も起こった。私の記憶が正しければ、オアシスのグッズがオシャレだったことは過去に一度もない。なのに、アディダスのコラボショップは連日大盛況、渋谷を歩けばボックスロゴのTシャツやジャージをオシャレに着こなした若者と何度もすれ違うのだから、明らかに私の感覚が古く、オアシス観はとっくに刷新されていたのだろう。そう、再結成オアシスとは、全てのファンにとって「新しい」オアシスだったのだ。(以下、本誌記事へ続く)
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