今週の一枚 アンダーワールド&イギー・ポップ『ティータイム・ダブ・エンカウンターズ』

今週の一枚 アンダーワールド&イギー・ポップ『ティータイム・ダブ・エンカウンターズ』

アンダーワールド&イギー・ポップ
『ティータイム・ダブ・エンカウンターズ』
7月27日(金)発売


アンダーワールドイギー・ポップの組み合わせは、予想を遥かに超えてよかった。イギーの声は、ビートの効いたエレクトロニックなサウンドにとてもよく合うことが、あらためて証明された。もちろん、アンダーワールドの持つパンクなセンスがあってこそのマジックだろう。

1曲目は、イギーが歌い上げずに喋っているようなパフォーマンスをしていることもあって、マーク・E・スミスとマウス・オン・マーズの共演=ヴォン・スーデンフェッドを連想させる。そういえば、一昨年に出たアンダーワールド最新アルバムの1曲目もザ・フォールっぽかった。続く“トラップド”のバックトラックはスーサイド調。これも確信的なようで、イギーがアラン・ヴェガ風の叫びをあげたりしている。ただし、女性バック・ボーカルなどを活かして楽しげな雰囲気の仕上がりだ。

3曲目だけ4分半ちょっとと短めで、落ち着いたトーンのサウンドにのせて、ゆったりと語りかけてくるイギーの声が実に心地よく、チルアウトのひと時という感じ。そして最後はクラウトロックなノリで、かつてドイツに滞在していたイギーとボウイと、クラフトワークが会ったエピソード(“ヨーロッパ特急”でそう歌われている)などを思い起こしたりして、楽しい気分になる。


アンダーワールドは、ポスト・パンクを自身の表現の中でリバイブさせるのに巧みな手腕を発揮し、そこでイギーの存在感を最大限に活用してみせた。マークやアランを直接的に起用するようなことになるよりも(どちらも鬼籍に入ってしまったが……)よい結果を出せたと思う。

思い起こせば、『トレインスポッティング』のサントラで最も重要な役割を果たしたのが、“ラスト・フォー・ライフ”と“ボーン・スリッピー:ナックス”だった。そして21年後、『T2 トレインスポッティング』のタイミングで、リック・スミスは「今しかない」とコラボレーションを持ちかけ、「会って話をするくらいなら」と言うイギーが宿泊しているホテルにスタジオをしつらえ、彼を迎えたのだという。その熱意に押されたイギーは見事に要求に応え、この素晴らしい作品が誕生した。

全体的に穏やかな音と対比して、歌詞の内容は決して明るいものにはなっていない。《今じゃムリだ/もうできないよ》《囚われている/くだらないゲームだ/さらば、少年》といった言葉はイギーの人生から絞り出されてきたものに違いないが、同時に、録音現場とスカイプで繋がったダニー・ボイル監督との会話にインスパイアされたものだという。これはまさにもうひとつの『トレインスポッティング』。 (鈴木喜之)
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