今週の一枚 ケミカル・ブラザーズ『ボーン・イン・ザ・エコーズ』

今週の一枚 ケミカル・ブラザーズ『ボーン・イン・ザ・エコーズ』

ケミカル・ブラザーズ
『ボーン・イン・ザ・エコーズ』
7月17日(金)発売

今日はケミカル・ブラザーズの新作『ボーン・イン・ザ・エコーズ』の全世界同時発売日である。みなさん、もう買いましたか?

アルバム発売時期とあって、ケミカルズの公式フェイスブック・アカウントが盛り上がっている。数日前から謎の日本語のエントリーが連投されてファンを混乱に陥れているのである。『ボーン・イン・ザ・エコーズ』のリリースに向け、やれトレーラーをチェックしたかとか、シングル“Go”は聴いたかとか、一ヶ月後のサマソニ@QVCマリンフィールドで会おうとか、はては日本のおすすめのラーメン屋を教えてくれとか(笑)。「コンバンワ、ニッポン!」「HAPPY TANABATA!」とか「4649!」なんて妙に気軽に呼びかけているのもおかしい。

なかでも7月16日のエントリーではトム・ロウランズの名で「ニュー・アルバムのキーになる曲はなにか」という質問に答えているのが興味深い。トムは、特定のどの曲というよりも、アルバム全体がいかにひとつにまとまっているかが鍵である、としている。トム個人としては"I'll See You There"が突破口になったトラックであり「自分がどうやって仕上げていったのか説明出来ないような曲が僕は大好きなんだけど、これはそういった曲なんだ」と語っている。

そして8月1日発売の『ロッキング・オン』誌では、トムは僕のインタビューに答え、こんなことを言っている。「今作ではもっと荒削りで生々しくて、本能的、直感的な感触を打ち出したかった。考えすぎずに……原点に戻るというか。長年音楽を作っていると、そこそこ技術も身につくわけだけど、そうした技術は必ずしも良い曲を生み出すわけではないんだよ。ある意味、今回の僕達はそうして20年かけて身に付けてきた技術を、いかに忘れるかが課題だったんだ。いかに直感的に、自分達が感じるままに音楽を作っていけるか、という」

キャリア20年以上にも及ぶ大ベテランが、培ってきた技術を忘れ、本能的・直感的に音楽を作る「原点」に戻る。初めて電子楽器に触れ、その可能性に心を踊らせた時の初期衝動。そうしたものにもう一度身を委ね、音楽を作る喜び、音を鳴らす感動を取り戻す。そうした思いに突き動かされ、『ボーン・イン・ザ・エコーズ』を作った。これはさきほどの「自分がどうやって作ったか説明できない」という言葉と符合する。それほど彼らは本作の制作に没頭できたのだろう。そしてその成果は実際の作品に見事に反映されている。緻密な音響デザイン、多彩なリズム・アレンジ、豊富なシンセ・アレンジによって作られた空間表現のマジカルな飛翔、実験をそれと感じさせないポップ性、ベック、セイント・ヴィンセントなどゲスト・ヴォーカルの歌唱も含め、隅々まで神経が行き届き、計算され尽くした音響ポップ・アートとして完璧な仕上がりなのであり、しかもそこには熱く脈打つような情熱と初期衝動が宿っている。

そして、一ヶ月後に迫ったサマソニでは、この完璧な音響アートが超弩級の照明や映像と合体する、壮大でスペクタキュラーなショウが展開されるのである。ライヴ映像作品『ドント・シンク』の舞台となった2011年フジロックのショウの凄まじさに腰を抜かした人も多いだろうが、あれを上回る体験になるのは間違いない。それまでは『ボーン・イン・ザ・エコーズ』を爆音で聴いて待つことにしよう。

ちなみに現在、前述のFBアカウントでは「みんなはどの曲が一番好き&ライヴで聴きたい?」なんて質問が投げかけられている。もしかしてリクエストに応えてくれるのか?(小野島大)
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