今週の一枚 マドンナ“リヴィング・フォー・ラヴ”

今週の一枚 マドンナ“リヴィング・フォー・ラヴ” - マドンナ『レベル・ハート』2015年3月11日発売マドンナ『レベル・ハート』2015年3月11日発売

マドンナ
“リヴィング・フォー・ラヴ”
他全6曲配信中

マドンナの新作というそれ自体の話題性もさることながら、ここ数年、EDMがいちジャンルとしてすさまじい勢いで広く定着したことを考えれば、ダンス・ポップの元祖ディーヴァであるマドンナの次なる一手にこれまで以上に注目が集まるのはあまりにも明らか。以前から、ディプロと組んで「ディプロ史上最もクレイジーなレコードをちょうだい」とマドンナが要求したとも報じられていた、来たるべき新作からの先行シングルが本曲となる。

ご存じのとおり、ニュー・アルバム『レベル・ハート』からの楽曲がリークし「テロ行為」だと憤慨したマドンナは、急きょ本曲を含め6曲を「早めのクリスマス・プレゼント」としてリリースした。現時点でそれらの配信がスタートしている。

アルバムというパッケージで出して初めて聴き手に渡るべき作品が、こういう形になってしまったことにマドンナが激怒するのは無理もない。というのも、この6曲を聴くとトータル・コンセプトを早く捉えたくて仕方なくなってしまうからだ。”Living For Love"は、クラシックなハウス・トラックでありながら、EDMのトレンドを知的に、同時にクールに体現している。この平熱な感じというのが驚くべきところで、暑苦しいまでの自我を感じさせることなく、どこか、何か別のものの姿を借りているようなところがあるのだ。

何か別のもの、と言ってもマドンナが何かに憑依しているということではないし、その逆でもない。マドンナがアイデンティティを失っているということでももちろんない。SOPHIEがプロデュースを手がけニッキー・ミナージュをフィーチャーした別の楽曲'Bitch I'm Madonna' の印象が強いからかもしれないが、端的に言うなら、まるでマドンナがボカロのようである、ということだ。トラックを操る凄腕たちに囲まれ、まるで奉られるような存在感を発揮しているマドンナは、これまでのマドンナ像と似て非なるものである。

たとえばアヴィーチーの楽曲におけるメロディをはじめとして、ポップ・ミュージックとして成立するEDMには圧倒的なエモーションがある。マドンナはこの曲におけるエモーショナルなピアノの旋律をアリシア・キーズに弾かせているし、オルタナティヴなエッジをアリエル・レヒトシェイドに託している。クロスオーヴァーやフィーチャーをいうものを超えた、新の共同プロダクションを生み出すことに成功したうえで、マドンナ印を焼き付けているのである。

エッジィなものを単に取り入れるのではなく、自身の血肉にするときの根性。それはいつだってマドンナには不可欠なものだったが、公開済みの6曲を聴くかぎり、もはや別次元に達しているように思う。あくまでも今の時代におけるリミックスの感覚を捉え、もともとリミックス済みのような仕上げを施した楽曲群に、やはりマドンナの鋭さとセンスの良さを感じずにはいられない。

ディスクロージャーとのコラボは早くに否定されたが、このハウス・トラックを聴くとマドンナの目指していたものは非常によくわかる。だからこそ、早く全曲を聴かないと始まらない。
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