今週の一枚 ミュー 『プラス・マイナス』

今週の一枚 ミュー 『プラス・マイナス』

ミュー
『プラス・マイナス』
4月22日発売

今週の一枚 ミュー『プラス・マイナス』は、ライターの粉川しのさんが書いていただきました。
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実に5年半ぶりのミューの新作である。この『プラス・マイナス』は5年半をかけて執拗に、徹底的に構築された途方もない密度のアルバムであり、同時にそのみっしり詰め込まれた音とアイディアを扉をブチ開け解放するような、晴れやかなカタルシスをも感じられる一枚だ。

ミューは前作『ノー・モア・ストーリーズ』(2009)にも4年以上の歳月を費やしている。彼らのアルバム・リリースがスロー・ペースになった背景には2006年のヨハン(B)の脱退が大きく作用している。言うまでもなく、ミューの音楽は特殊だ。複雑に織り込まれた骨太プログレッシヴな楽曲構成と、ヨーナスのファルセット・ヴォイスに象徴される繊細かつ儚げなサウンドスケープ、そのふたつが両立した彼らは、音響派&エレクトロの先鋭しても、ラウド・ロックの異種としても評価され、多方からリスペクトを集める唯一無二のステイタスを築いている。

しかし、ミューは結局のところどのジャンルにも属さない。そしてどこにも属さず、特殊であることは、孤独にも繋がる。ミューが指標としうるものは彼ら自身の音楽しかないし、無のキャンバスに独り向き合い、ピースをひとつでもはめ間違えれば崩れ落ちてしまうような、そういうフラジャイルな音楽を彼らは作っている。そういうバンドのシステムの中でヨハンが失ったことは、まさに身をもがれるに近いディンティティの欠落だったことは想像に難くない。

『プラス・マイナス』はそんなヨハンがバンドに復帰し、オリジナル・メンバーーの4人が8年ぶりに揃った作品だ。8年にわたってミューを外側から観察する機会を得たヨハンの再参加によって、本作のミューのサウンドにはある種の客観性が生じている。この5年半でヨーナスの脳内で無整理のまま肥大しきっていた膨大なアイディアの数々を、4人で改めて向き合い解きほぐし、「ミューらしさ」の基準にそって再構築する作業によって、本作のナンバーはカオティックなのに明快という次のステージに到達している。

ブロック・パーティのラッセル(G)やキンブラの参加もミュー・サウンドの翻訳に一役買っている。ハイライトはアルバムのラストを飾る10分、7分超えの大曲“Rows”と“Cross the River On Your Own”。広大なキャンバスにミューが無限の色彩と共に結成20年目の自画像を描いていくプロセスを目の当たりにする、そんな興奮がそこにはある。
(粉川しの)
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