今週の一枚 ジャスティン・ビーバー『パーパス』

今週の一枚 ジャスティン・ビーバー『パーパス』

ジャスティン・ビーバー
『パーパス』
発売中


ジャスティン・ビーバーは、当初ピアノだけで作ったバラードをEDMのスーパースター、スクリレックスとディプロに送ったそうだ。が、そこから“Where Are Ü Now? feat. Diplo & Skrillex”が完成したことが、21歳の彼がアイドルからの変貌を遂げる、今作『パーパス』の成功のカギとなったように思う。前作『ビリーヴ』も彼の中でのポップを前進させようと挑戦した前向きな作品であったが、青春を謳歌する前に早く大人になろうと背伸びしようとした作品のようにも思えた。一方、今作は、EDMなどの今のメインストリームど真ん中のサウンドを使いながらも、それが、より自然な彼を引き出し、かつアーティストとしても、ポップソングとしても、果敢な挑戦になっているところが興味深い。ディプロとスクリレックスの曲で良かったのは、ジャスティンのヴォーカルを楽器のひとつのようにシンプルに使うことによって、彼の声の美しさが効果的に引き出されていること。これは、様々な音をサンプリングしてきたふたりのDJの耳の良さによるものだと思う。それが、アルバム全体のトーンを決定していて、全体的にプロダクションはシンプルなのだが、例えば、エド・シーランとのコラボ曲“Love Yourself”なども「エド・シーラン」節に頼ることなく危険なくらいミニマルなプロダクションになっていて、そこに前向きな挑戦を感じるし、おかげでこの曲が新鮮に響く。

また、そのシンプルで削ぎ落としたサウンドと、彼がここで歌っている歌詞の内容もマッチする。すでに公になっている彼がここ数年で犯したいくつかの過ちを反省する内容だったり、また“I'll Show You”で歌われているような「この人生も楽じゃない/僕は鉄でできていないから/僕も人間だということ忘れないで/僕もリアルなんだと忘れないで」という内省的な歌詞に、むき出しのシンプルな心情が表現されているのだ。そして、『パーパス=目的』を見失い、しかし「君が僕に目的をくれた」というところまで立ち直ることが誠実に正直に綴られている。その孤独とも悲しいとも言える歌詞が、しかし、みんなを踊らせるポップソングとしてしっかり成り立っている。傷付き、自分を見つめ、反省し、成長したジャスティン・ビーバー、正に21歳、ティーンアイドルからポップスターへの変貌を記念する作品となった。また、メジャーなポップスターが、ステレオタイプに甘んずることなくポップを進化させようとするシーンの姿勢をも象徴している。
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