今週の一枚 ブロッサムズ『Blossoms』

今週の一枚 ブロッサムズ『Blossoms』

ブロッサムズ
『Blossoms』
8月5日(金)発売

マンチェスター出身の5ピース・バンド、ブロッサムズのデビュー・アルバム『Blossoms』は、もしかしたら画期的な一枚となるんじゃないだろうか。本作が画期的である理由はここで何か新しい音が鳴っているとか、未だかつてないアイディアが詰まっているとか、そういう進化・革新において担保されるものではない。むしろこの2016年にここまで純血インディ・ロック然とした佇まいを持つクラシックなアルバムが、結果として小さくまとまったインディ村の因習と内輪ノリを突き破り、恐らく多くの人に聴かれ、幅広い支持を集めるポップ・アルバムになるだろう矛盾が画期的なのだ。

BBCの有望新人リスト、「Sound of 2016」の4位にエントリーしたことでも話題になったブロッサムズだが、そもそもオーセンティックなギター・バンドがノミネートされることすら珍しい同リストでの4位入賞は大健闘だと言っていい。加えて直近ツアーはソールドアウト続出、6月のグラストンベリー・フェスでのステージは裏ベスト・アクトの呼び声も高いなど、彼らのブレイクに向けての状況が整った今、そのチャンスをがっつり掴み取り、プレッシャーを撥ね除け、過剰な期待に見事応えてみせたのが、この『Blossoms』だ。

ピースのオープニング・アクトとして初来日した際(2015年)にも、マッドチェスターの伝統を受け継いだグルーヴの端緒を既に覗かせていたブロッサムズだが、本作ではそれらが一回りも二回りも大きくうねる彼らの武器としてブラッシュアップされている。彼らの「確変」はアデルを抜いて英iTunesチャートで1位に立ったシングル“At Most a Kiss”から始まったと認識しているが、本作ではさらに進化、ローゼズのグルーヴ、オアシスのラッド・メロディ、さらにはニュー・オーダーのエレクトロのエッセンスまで加えた「複合型マンチェ」サウンドに仕上がっている。それに加えて、ざくざく刻むギターや初々しくもふてぶてしいボーカルはアークティック・モンキーズを彷彿させるし、初期デペッシュ・モードのようなエレポップのキャッチーさもクセになる。

しかし本作の真の魅力、ブロッサムズの新しさとは、そんなラッドでグルーヴィーなインディ・サウンドのスケール感の一方で、思いっきりマニアックで繊細なインディの美観の面でも際立った存在であること。ザ・コーラルのジェームズ・スケリーがプロデュースを手掛けていることの影響も大きいと思うが、特にそれが露になるのが中盤〜後半にかけてのサイケデリックでネオアコな佳曲が並ぶ展開。スミス時代のジョニー・マー直系の美しすぎるアルペジオや、アークティック・モンキーズからザ・ラスト・シャドウ・パペッツに変身したかのようなシネマティックで捻りを効かせたポップセンス、ドアーズやエコバニ彷彿のダーク・サイケや60年代ウエストコーストの陽光サイケまで、とことん趣味的であるはずのそれらのサウンドが、前半の猛烈ポップなサウンドと見事に対峙、両立されているのが凄いのだ。

まさに「インディ・サウンドの総力戦」の趣を持つこのアルバムが、メジャー・フィールド、ポップ・フィールドで十分戦えることを証明した時、UKギター・ロックの2016年は一段階ステップアップすることになるだろう。サマソニでの再来日と合わせて、その瞬間を見逃さないで欲しい。(粉川しの)
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