今週の一枚 ザ・エックス・エックス『アイ・シー・ユー』

今週の一枚 ザ・エックス・エックス『アイ・シー・ユー』

ザ・エックス・エックス
『アイ・シー・ユー』
1月13日(金)発売

ザ・エックス・エックスにとって4年ぶりのニュー・アルバムとなる『アイ・シー・ユー』が、ついにリリースされる。このアルバムは、すごい。すごさの理由はエックス・エックスが大きな変貌を遂げた一作であると同時に、なによりも彼らの全貌、本質がようやく100%発揮された「全開」のアルバム、心身のあらゆる垣根を取っ払ってオープンに響くアルバムであるという点だ。

『ザ・エックス・エックス』、『コエグジスト』の過去2作で彼らを封じ込めていたミニマリズムという名の固く美しい殻が破れ、その中から色彩や躍動、感情といった輪郭のはっきりしない流動体が一気に溢れ出してくるような興奮を感じる『アイ・シー・ユー』。その興奮は温かさや滑らかさといった具体的な感触をもリスナーにもたらすもので、簡単に言ってしまうと「心地よい」サウンドということになると思う。本作がR&Bやソフト・ロック、さらにはアダルト・コンテンポラリーを連想させるのはそれゆえで、先行シングル“On Hold”でホール&オーツがサンプリングされていたのも偶然ではないのだ。

エックス・エックスらしさを厳密に取捨選択していった過去2作で、彼らは自分たちのアイデンティティを固めることに全力を注いでいたように思う。翻って本作は、結果としてエックス・エックスのアイデンティティとはいかなる局面においても応用可能であることを証明してしまっている。生まれ育ったロンドンのベッドルームから飛び出し、世界各地の未知なる街でレコーディングを重ねていった本作は、そこで出会った人々、音楽、風景といったものに影響され、新たなエッセンスとして取り込まれている。そういう意味では非常にまっとうな脱思春期の一作、10代でデビューしたエックス・エックスにとっては突拍子もない激変作なんかではなくて、積み重ねられた経験と知識の成果、当たり前の成長作だとも言えるかもしれない。

こうして外野(と今まで彼らが定義していた人、物)との関係性の変化の中で柔軟化された本作のエックス・エックスの音楽は、彼らにとって最大母数の外野であったリスナーとの関係性も当然のように変化させ、両者の間にコミュニケーションと呼ぶべき相互性を生んでいる。すなわちそれは、ポップ・ミュージックの誕生ということだ。

本作のもうひとつの重要なキーは、ジェイミーのソロ・アルバム『イン・カラー』や彼のプロデュース業で培われたガラージやハウス、ヒップホップの躍動感が見事に反映されている点だ。前段で記した『アイ・シー・ユー』のポップ・ミュージックとしてのスムースな心地よさは、こうして躍動&動的興奮と融合することによってフロア・ミュージックとしても、数万人を相手にするアリーナ・ミュージックとしても語りうるものになっている。

しかも、アリーナ・ミュージック化したことで密室での共謀のようなかつてのエックス・エックスの醍醐味であるポスト・パンクやアヴァン・ガレージのテンションが薄れたかと言えば、そんなことは全くない。ミニマム系のナンバーはむしろ『コエグジスト』のナンバー以上に音数を減らし、抽象性を増し、静謐の中で佇んでいる。ビートを重ね、メロディを膨らませ、ディスコやクラブ・ミュージックとの親和性を増しつつも、禅にも似たミニマリズム、達観の境地が最果てに待っているという本作の構造、絶妙のバランス感覚については、ここしばらくアーサー・ラッセルにハマりまくっていたというジェイミーの証言がヒントになるかもしれない。

ちなみに面白いのは、ジェイミーは本作ではむしろ自身のソロとは真逆のチルアウトかつミニマムな「ザ・エックス・エックスらしさ」への回帰を当初は望んでおり、逆にロミーとオリヴァーがジェイミーのソロに刺激を受けまくってアッパーでポップなサウンドをやりたがったという点だ。詳しくは現在発売中のロッキング・オン最新号のインタビューをお読みいただけばと思うが、この方向性の食い違いが結果オーライで丸く収まってしまったあたりに、理屈を超越した3人のケミストリーを感じてグッときてしまう。

ザ・エックス・エックスがポップ・ミュージックの最前線に踊り出ることが早くも約束された2017年。新たな年が最高のかたちで幕開けようとしている。(粉川しの)
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