今週の一枚 ジ・アシッド

今週の一枚 ジ・アシッド

ジ・アシッド
『リミナル』


英エレクトロニカ界の重鎮であるプロデューサー、アダム・フリーランド。
米ミュージック・シーンに強い影響力を持つ教授、スティーヴ・ナレバ。
豪シンガーソングライターシーンでにわかに注目されている、ライ・X。

この3国の3人のつわものおじさんユニットである。

まさに3人のプロフィールから想像できる通りの音で、
ハウス、エレクトロニカ、アコースティックが緻密に折り合わされたトラックにボン・イヴェール系の引きの美声が乗るという、最近ありがちなパターンではある。
だが油断しているといきなりグッと引き込まれる瞬間があって、それを機にいきなり感覚の焦点が合うと、なるほどこの音のアート性は半端ではないことに気づく。

こちらのリテラシーを試される音である。

そういうの嫌なんだけど、と思っても、
いったん引きずり込まれると、このおじさんたちの音はなかなか引き返させてくれない。

この手の音でも、たいがいは聴いているうちに
「ははーん、実はポップ志向なんだな」とか、
「つまり、病んでるんだな」とか、
本人の意図みたいなものがわかってくるものなのだが、それがまったくわからないのがこのおじさんたちの怖いところ。
とにかく美術館に展示したくなるほどの緻密さと完成度とアート性によって音が構築されているのだが、
それがなんのためなのか、どういうエモーションによるものなのかまったく伝わってこない。
真空の中で音楽を聴いているような奇妙な感覚になる。

おそらくこのつわものの3人は、誰一人として音楽を「自己表現」の手段にしないよう、おたがいを厳しくチェックし合ったのだろう。
緊張感が半端ない。
なんかすごい。
山崎洋一郎の「総編集長日記」の最新記事
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