今週の一枚 カサビアン
2014.06.16 07:00
カサビアン
『48:13(フォーティーエイト・サーティーン)』
カサビアンをデビュー当時から知っている人は誰も、
まさかこのバンドがグラストンベリー・フェスのヘッドライナーを務めるようになるなんて思っていなかったはずだ。
イギリスではすっかり安定した高い人気を誇る国民的バンドになった彼らだが、
そんなことは予想すらできなかった。
カルト・バンドとしてどれだけシーンに毒針を刺せるか、テロリストとして事件を起こせるか―――
それが僕らがカサビアンに寄せた期待、託したロマンだった。
今作は、その頃のカサビアンが持っていたそんな匂いが戻ってきた。
不穏なエレクトロのノイズ、やけくそのダンス・ビート、アンセミックながらも退屈感がベッタリと張り付いたメロディー―――
レスターの一軒家でロウテクでやすい機材で音楽テロを企てていた頃の、
パンクな気分と発想が戻っているのだ。
デビューしてから10年間、自分たちの音楽の基本形を守りながらも、
ビッグ・バンドとしてのニーズを引き受けながら、より派手に、よりゴージャスにサウンドの幅を広げてきたカサビアンだが、今回は、
「アナログ・シンセのノイズ一発で世界を塗り替えることはできる」
「シーケンスだけで聴き手の脳みそをふっ飛ばすことはできる」
「サビのコーラスだけで聴衆の心を燃やすことはできる」
というパンクな精神に貫かれている。
音楽的なリーダーシップを握るサージが完全にそういうモードなのだろう。
PVを観ても、サージのはじけ方がハンパない。完全にスイッチが入っている。
サージのどんなスイッチが入っても、素直に自分のペースで歌いこなすトムもいい。
もちろんデビュー時よりもスキルや完成度ははるかに高い。
このアルバムを作り終えてグラストンベリーのステージに立つカサビアンは、本当にかっこいいバンドだと思う。