今週の一枚 カミラ・カベロ 『カミラ』

今週の一枚 カミラ・カベロ 『カミラ』

カミラ・カベロ
『カミラ』
1月12日発売


フィフス・ハーモニー在籍時からソロ活動を展開していたカミラ・カベロが念願の1stソロ・アルバムをついにリリースした。もともとオーディション番組『Xファクター』のアメリカ版でソロ・アーティストとして応募したが叶わなかったカミラは、番組側が同様の応募者を集めて招集したユニット、フィフス・ハーモニーに参加し、2013年にデビューを果たすことになった。

しかし、フィフス・ハーモニーとしての活動に併行してカミラは2015年からほかのアーティストとのコラボレーションを試みながらソロ活動も展開。“I Know What You Did Last Summer”や“Bad Things”など、1stと2ndソロ・シングルがそれぞれにプラチナに輝くほどのヒットとなり、16年の12月にはついにフィフス・ハーモニーからの脱退が明らかになった。


では、カミラがそこまでしてソロ活動を目指したわけは何だったのか。それは自身のアーティスト・エゴがグループとしての活動を許さなかったからなのか。確かにフィフス・ハーモニー活動時もカミラの存在感は抜きん出ていて、もともとグループとして結成されたユニットのメンバーがここまで突出した存在感を感じさせるのはかなり稀なケースだと「Billboard」誌でも評されたほどだった。

しかしカミラがここまでソロとしての活動に固執したのは、母親がキューバ人で父親がメキシコ人、そしてキューバのハバナ育ちという自身のアイデンティティを表現として打ち出していくにはどうしてもラテンを展開しなければならないし、フィフス・ハーモニーの中道的なポップR&Bではそれはままならないという事情があったからなのだ。

もちろん、そんな事情も所詮はアーティスト・エゴとして片づけられてしまうものなのかもしれないが、キューバからメキシコへ、そしてアメリカへと移住を繰り返したカミラにとって、自分の音楽的なアイデンティティを確かなものとして打ち出すというのはどうしても譲れないものだったはずだ。


そんなカミラの決意をまざまざと見せつけることになったのが、ピットブルの映画『ワイルド・スピード ICE BREAK』のサントラ曲“Hey Ma”への客演だ。特にこの曲のスペイン語バージョンでのあまりにも瑞々しくも艶やかなカミラのパフォーマンスは、自身のソロ活動の真意をよく伝えるものになっていた。それでなくてもカミラにとってこの曲は、アメリカでのラテン・チャート初ランクインという嬉しい記録にもなったはずだ。

こうした着実な試みを経てようやく形になったカミラの1stソロ『カミラ』はこうしたカミラ自身の音楽的なアイデンティティと、フィフス・ハーモニーで打ち出してきたポップR&Bの両面をきちんと打ち出し、これまでフィフス・ハーモニーとカミラのソロを支えてきたファンに応える内容となっている。


オープナーを飾るのはこのアルバムからのシングルとなった“Never Be the Same”で、ゆったりとしたシンセ・リフがうねるようにグルーヴを生み出していくR&Bとなっていて、取り返しのつかない愛を知ってしまった歌い手の心情を歌い上げている。低音と高音を歌い分けてさまざまな表情を演出してみせるカミラのパフォーマンスは暗さや憂いも感じさせるものであり、これまでのソロ活動を通して打ち出してきた、愛に伴う陰影もよく感じさせる内容になっている。聴きやすさと影がバランスよくR&Bとしてまとまった、まさに現時点のカミラをよく表すトラックなのだ。

続く“All These Years”はギターの演奏との弾き語りで、以前の交際相手との現在の対話を構成した内容がシンガー・ソングライターとしてのカミラの力量をよく聴かせる曲となっている。カミラが語りかける相手へのやるせない心情がとても繊細に描かれていて、20歳とは思えない筆致が見事。きっとそれだけ、これまで後にしてきた思い出がいろいろあるということなのかもしれない。


3曲目はスクリレックスも巻き込んだダンス・ナンバーの“She Loves Control”で、ピットブルとの“Hey Ma”で見せた活き活きとしたレゲトンを見事に消化した曲。仕切りたがりの女について歌った内容で、自分もまたそうだからすごく歌っていて楽しいとカミラは説明しているが、間違いなく今後のライブでも重要な役割を担うはずのナンバーだ。

4曲目は昨年の8月にシングル・リリースされ、アメリカでもイギリスでもチャート2位に輝いたヒット曲。ファレル・ウィリアムスと制作したけだるいラテンの調べに合わせて、ハバナからアトランタへとアメリカの男に連れ去られたけれども、後ろ髪を引かれる男をハバナ残している女性の心情を歌うという内容だ。

まさにこの曲のムードとラテン的な世界観こそがこのアルバムのメイン・テーマといってもいいし、おそらくこの曲が書けた時点でこのアルバムのイメージも定まったと言っていいだろう。


続く“Inside Out”は明るいレゲトン・ナンバーになっていて、素のカミラによるラブ・ソングでとても心温まる1曲。端的にいって、オープナーからこの曲までは特に今回のソロのテーマを如実に打ち出した楽曲が揃っていて、カミラのソロ活動の必然性をよく伝える楽曲群になっている。これに続く後半はポップ/R&Bアーティストとしてのカミラの力量を聴かせるものになっているが、もちろんこちらも聴き応えに溢れているのはいうまでもない。

特に関係性の破局や破綻を歌ったバラードの“Consequences”や“Something’s Gotta Give”のR&Bとしての圧倒的な迫力とメジャー感は、むしろ前半のカミラの個性以上にカミラの力量をよく伝える内容になっていると思う。さらに“In the Dark”や“Into It”のコンテンポラリーなR&Bとしてのパフォーマンスの魅力を前にすると、前半の自身の生い立ちをよく反映した楽曲群を抜きにしても、やはりいずれソロとしての独立は避けられないものだったことをよく物語っている。


本人が全曲シングルとしてリリースできるような内容のアルバムにしたかったと語っていた通り、まさにそんなアルバムとして仕上がっている。そしてどの曲にも共通しているのは、楽曲として優れているだけでなく、“Real Friends”のような赤裸々な心情も込められているところであり、楽曲とストーリーを見事に両立させることに成功したデビュー作だ。(高見展)
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