【インタビュー】江沼郁弥はDOGADOGAでカオスとポップを表現する。最新EP『あっ!』が生み出す強烈なグルーヴの本質

【インタビュー】江沼郁弥はDOGADOGAでカオスとポップを表現する。最新EP『あっ!』が生み出す強烈なグルーヴの本質

江沼郁弥(Vo・G)が2023年に結成したDOGADOGA(ドガ)は、強烈に独自のグルーヴを放つバンドだ。かつてplentyで響かせた孤高のロックサウンドとは真逆とも言える、ポップとカオスがせめぎ合うダンスミュージックはとにかく刺激的。ポストパンクやファンカラティーナからの影響を強く感じさせるフリーキーなサウンドに、土着的な日本歌謡のメロディが面白いように絡んで、現代日本の音楽シーンにおいて稀有な存在感を放っている。

そのDOGADOGAの最新EP『あっ!』が完成。前作から引き続き、1970年代の日本歌謡からの影響や洋邦やジャンルを問わないハイブリッドな音楽性の融合はそのままに、よりポップでエキセントリックな人力ダンスミュージックを生み出している。これは全世代、全ジャンルの音楽ファンにアプローチする新たなグルーヴだ。江沼が今、DOGADOGAで表現しようとしていること、その本質をひもとくインタビューをお届けする。

インタビュー=杉浦美恵 撮影=AZUSA TAKADA


小難しいことをやって「こんな音楽も知ってるんだ」っていうところには行きたくないんですよね

──江沼さんはソロ活動を続けていく中で、2022年の『極楽-EP-』あたりから少し、もっと自由に音楽を楽しもうというモードになっていったように感じていました。そのあとDOGADOGAを結成されて、その音楽性はまさに自由にいろんな音楽を取り込んでいて。バンドはどのように結成したんですか?

コロナ禍で何もできなくなってたときに、岡山健二くん(DOGADOGAの初期メンバー/Perc・Cel・Tamb・Pan・Shaker)と電話で「最近何してんの?」みたいな話から、「パンクバンドやんない?」っていう話になったんですよ。で、ちょうど同じ頃に、20th Centuryのバックバンドをやってくれないかという話があって。

──江沼さんがトニセンのバンマスを務めることになったのは、すごく驚きでした。

ですよね(笑)。『極楽-EP-』のツアーで、その東京公演の客席に井ノ原快彦さんがいたんですよ。そのあと楽屋に来て知り合いになって、何回かごはん食べにいって。それで「実はトニセンでやろうと思っていて、それを手伝ってくれないか」という話になって。その頃僕はシーケンスを入れながらギターを弾いて、歌ってというライブをしていて。最初のトニセンのツアーも、はっきりコンセプトがあったわけじゃないけど、外注ではなくバンド内でアレンジを作り替えながらシーケンスを入れて展開するみたいなイメージがあったみたいで。それと年齢感がちょうどよかったのかな? 僕はバンマスをやったことはないし迷ったけど、メンバーも自由に決めてやりやすいようにやってくださいということだったので、やってみようかなと。それでまずトニセンバンドができました。

──それが、久しぶりのバンドということになったんですね。

そうですね。plenty以降やっていなかったので、やっぱ楽しいなと思いました。そこに原形がありつつ、健二くんと話しながら、ここから自分たちのバンドを組んだら面白いんじゃないかっていうので、面白半分というか、一旦深く考えずにやってみようという感じでしたね。

──江沼さんの中で「パンクバンドを」という衝動は、どういうところから湧き上がってきたんですか?

やっぱり、コロナ禍で何もできないストレスや鬱憤が大きかったんだと思います。きれいなもの美しいものというよりも、もっとぐしゃっとしたものをやりたいなみたいな。それはフロアのお客さんも含めて、そういう景色を見たいという思いだったのかもしれないです。

──トニセンのサポートバンドを努めて、そこでバンドというものに対して新たな気づきがあったりもしました?

やっぱりみんな上手いし、そういう人たちと一緒にやると、ひとりで曲を作っているときとは違う感覚があって新鮮なんですよね。ひとつ何かを投げたら自分からは出てこないアイデアが返ってくるというのが単純に面白いなと。本来バンドってそういうもんだと思うんですけど、plentyのときはよくも悪くもそういう感じではなかったので。plentyはまあ、自分のイメージを具現化する活動に近かったというか。トニセンのサポートバンドはそれとも違う感じだし、この人たちとやったらこうなるんだな、面白いなっていうのはありましたけどね。

──「パンクバンドやろうぜ」というスタートだったということですが、そこからイメージするサウンドと現在のDOGADOGAの音像は、また違ったものですよね。

そうですね。パンクバンドというと、たぶんみなさんが想像するのは、いわゆるパンクだと思うんですけど──僕はそっちのパンクももちろん通ったけど──パンクって幅が広くて、むしろそこが好きだったんですよ。70年代の初期パンクを経て、ラテン系やエキゾチカ、アートっぽいもの、ノイズなんかを取り入れて模索している時代の音楽とか。いわゆるポストパンクやファンカラティーナとか、いろいろと広がっていくあのぐつぐつ感というか、何か始まりそうな、あの時代の音楽。僕が好きなのはそのあたりのパンクなんですよ。

──ポストパンク期の混沌とした音楽性に惹かれるんですね。

整理整頓されてない、理路整然としていない感じというか。でもやっていることの精神性はパンクそのもので。その破壊衝動みたいなものが好きだったんですよね。で、DOGADOGAを始めようというときも、もっとノイズっぽいもの、いわゆるノーウェーブっぽい音楽をやろうとしていたんです。それは楽しいし、聴くのはもちろん大好きだけど、ちょっと人が立ち入れない感じがありますよね。危うくそっちに行きそうなところを、それじゃないんだよな、みたいなのがありつつ。そこが僕っぽいんですけど(笑)。やっぱりやる以上は自分たちが楽しいのはもちろん大事だけど、人に聴いてもらわないとなと思って。それで、いわゆる四つ打ちの打ち込みじゃなくても踊れるダンスミュージックみたいなものを芯に、開放的に、ギターロックっぽかったり歌謡曲っぽかったり、民族的な雰囲気もありつつ、いろんな要素を取り入れた今の方向性に向かっていきました。なんというか、小難しいことをやって「こんな音楽も知ってるんだ」っていうところには行きたくないんですよね。

音楽に意味とか詩的なものを求めすぎると聴き入る方向に向かってしまって、ダンスミュージックからは離れていく気がしていて。だから、歌詞もなるべく響き重視で作りたかった

──ポストパンクの雰囲気がありながら、そこに日本の歌謡曲の面白さも融合していて。しかもシティポップと呼ばれるものより以前の、とにかくいろんな洋楽のニュアンスを貪欲に取り込んでいった時代の日本の歌謡曲の面白さをDOGADOGAにはすごく感じるんですよね。

ほんとにその通りで。日本にはそういう時代があって、その整理されてない感じというか、意味不明な感じというか、そこへのリスペクトがありますね。音楽に意味とか詩的なものを求めすぎると聴き入る方向に向かってしまって、ダンスミュージックからは離れていく気がしていて。だから、歌詞もなるべく響き重視で作りたかったんです。

──メッセージ性の強いパンクではなく、言葉に肉体性を取り戻すような、それもポストパンクっぽいですよね。受け取り手は一見意味を持たないような歌詞から、何か別の意味を見出すみたいなところもあって。DOGADOGAがやっているのはそういうことなのかなと。

そうですね。そういう試み、ですかね。

──昨年はフルアルバム『CHAOS Z.P.G.』をリリースして、今回は新たにEP『あっ!』がリリースされるわけですが、結成当初から継続的なバンドにするイメージでしたか?

最初のテンション的にはもっと趣味的というか、メンバーそれぞれの活動もあるし、毎年アルバム出してツアーをやってというイメージというより、とりあえず集まって音を出すという感じでした。でも、僕があんまりそういうのが好きじゃなくて。誰かこう、きゅっとした人がいないと「おつかれー、楽しかったね。じゃあまたねー」で終わっちゃうんですよ。そういう人たちもたくさん見てきたし、それでいい場合もあるけど、それじゃもったいないなっていうのがあったんで、ある程度ちゃんとやっていきたいと思い始めて。それで、ベースの藤原(寛/B)くんにも「どうすんの?」って詰められたんです、登戸の中華屋で(笑)。ああ、寛くんも気になってたんだなあって思って。

──どれくらい本気なのかを探られた感じだったんですね(笑)。

そう(笑)。めんどくさいなあって思ったけど「やる」って決めて。ただ、メンバーの予定がなかなか合わないからもやもやするところもあるんだけど、年間でスケジュールを出すようにしながら「やろうよ」って。

──そう言ったからには腰を据えて。

やるならやると。そうじゃなかったら、ノーウェーブをそのままやればよかったわけだし、UK.PROJECTにお世話になったりもしなければいいし。人の手を借りる以上は責任も感じるし、責任を感じすぎて楽しくなくなってしまうという危険もあるけど、やっぱりある程度の緊張感やプレッシャーがないとやらなくなりません?

──すごくよくわかります。期限や締切がないと物事は進んでいかないです。

ですよね。それでいいならいいけど、僕はそういうのがあまり得意じゃなくて。せっかくこういう人たちが集まってるのにもったいないなと思うし。(古市)健太(Dr)は少し歳が離れてますけど、同世代で気の合う人たちと集まって続けていけたらいいじゃんみたいな感じはしています。

──DOGADOGAはサックスやフルートといった管楽器がリードを担うイメージもありますよね。

ナベさん(渡邊恭一/Sax・Cl・Fl)もトニセンで出会った人なんです。変な人です(笑)。最初のトニセンのツアーが終わったあとに「これから何していくんですか?」って聞いて誘いました。彼はジャズマンなので、日々サックスを抱えていろんなところを渡り歩いているような、すごく忙しい人なんですけど「やる」と言ってくれたので。ちゃんとバンドに在籍して自分のプレイを自分で考えて音源にしていくというのは初めてみたいで、楽しんでやってくれています。最初は戸惑ってましたけどね。DOGADOGAはサックスが鳴るところがすごく多いから。他の現場ではソロをとる曲があればそこを吹くとか、ポップスだったらイントロでフレーズを吹いてAメロが始まったら引く、みたいなことのほうが多いわけで。

──DOGADOGAでは主軸となるリフを担ってたりしますよね。

最初、曲のデモを送ったときには従来の感じで吹いてきたんですよ。でも「これじゃないですね、もっと、もっとです」みたいな感じであのプレイスタイルができあがって。ナベさんは最初はどれくらい吹いたらいいのか、その加減がわからないみたいだったけど、「引かなくていいです。ナベさんはもうひとりのボーカルです」っていうことを伝えました。こんなに吹く現場はないみたいで、「こんなに吹き散らかしてうるさくない?」って戸惑ってましたけど、その遠慮もどんどんなくなっていきましたね。

次のページ今は深刻で辛辣な言葉のほうが出てきやすいじゃないですか。その逆を行きたいんです。意味もなくバカバカしくて、くだらなくて。DOGADOGAはそっちに行きたい
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