最近の流れでいえば“ホムンクルス”“走れSAKAMOTO”に続くロックで押しまくる楽曲だが、80's洋楽ロックのシンセ感や序盤と終盤に離したサビの配置など変なことを強引にやりまくっているのもいつものVaundyのペースだ。
この楽曲に関して今回も情報積載量違反ぐらいの特濃インタビューをお届けします。さらに、アルバム『replica』のシークレットトラック“pained”が初めて配信されたのでそれについてもディープに語りまくってくれています。何かを好きになるということはどういうことなのか、愛しさとはなんなのか、という温かいテーマについてVaundyが真っ直ぐな言葉で語るというかなりレアなパートもあるのでじっくり熟読していただければ。
インタビュー=山崎洋一郎 撮影=太田好治
──今回は“再会”と“pained”の2曲について聞きたいと思っています。まず、“再会”は『光が死んだ夏』というTVアニメのオープニング主題歌で。すごくパワフルなポップロック曲です。(『光が死んだ夏』は)ドロドロした液体なんだけどちょっときれい、みたいな感じ。だから、“再会”は「青春が介入してくるホラーソング」にすればいいんだなって
僕はELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)が大好きなので、コーラスで持っていくビッグバンドみたいな感じをやってみたくて。
──タイアップの話をもらったタイミングでは、作品に関して思い入れみたいなものはあったんですか?
漫画1巻の表紙がめっちゃかわいいのは知ってたんですけど、当時はまだ内容を知らなくて。で、読んでみて、「めちゃくちゃ面白いじゃん、これ」ってなりました。ホラー漫画なんですけど、ホラーまでは行かない、でもちゃんと面白いホラーになってるという。怖いけど青春がある、その青春とホラーを音楽で表現するのがすごく難しいなと。でも、いわゆるマイケル・ジャクソンなんだなって思いました(笑)。“スリラー”ってホラーっぽいんだけど、構成とかサビの感じは、アメリカのダンスナイトの青春っぽい感じで。ああいう「怖さも青春の一部」っていう曲、日本でやるのがすごく難しいから、それを表現するために編曲とか歌い方が大事だなと思って悩んだ気がします。
──そのうえで音楽的なアイデアはどうやって入れていったの?
原作がドロドロした液体なんだけどちょっときれい、みたいな感じで、文字効果の使い方は昔のホラー漫画や、中期の浅野いにおさんみたいなディープな表現をしてるんだけど、爽快な青春物語でもある。だから、単純に「青春が介入してくるホラーソング」にすればいいんだなって思ったんです。
──それはほんとに作者の言葉だね。俺が聴いた時の印象はホラーをまったく感じなかったし、青春という言葉もまったく浮かばなくて、パワフルなポップロックだと思った。
最終的に筋肉で解決したっていうことなのかもしれない(笑)。みんなにはグイーン!っていう筋肉の部分しか見えてない。でも、「このデカい筋肉、実は優しいトレーニングしないと出ないんですよ」みたいな。サビを2回しか歌わないですしね。曲の構成も2番A、2番Bまで行って間奏に入る。で、♪黄泉の果て繋ぐ~で、アニソンに戻ってアニソンのまま終わるという。
──普通は、2回目のA・Bメロのあとにサビが来ると思うよね。
それを間奏にしちゃうという。原作の漫画がそういう展開なんですよね。たぶん2サビが来るのって最終話1個前だと思うんです。で、「終わりますよー」で終わるのが最終話という気がする。そういう大きい流れがそのまま曲になってるのかなと。
──そんなこと考えて曲作ってるやついねえよ(笑)。漫画は漫画、曲は曲!
(笑)でも、同じほうがいいじゃないですか。いっぱいアニメタイアップをやらせてもらってますけど、変な曲といっても、僕はアニメを引っ張る曲になってほしいし、絶対に売れなきゃいけないと思ってて。だから、ちゃんと展開を作って、サビが今期のアニメの中でいちばんいいサビになっていなきゃいけないなって。
──曲の構成についても聞いていきたいんだけど、まずはイントロとアウトロ。シンセのシーケンスは素直に80年代っぽい、そのままな感じがしました。「また変な曲出してるよ。でもなんかちょっと気持ちいいんだよな」をやれるようになったのは、「Vaundy、偉いな」って自分でも思う(笑)
この曲に一貫したメインテーマが欲しいなと思ったんですよね。たとえば、“恋風邪にのせて”のイントロの♪テレレレッ、テッ、テッ、と扱いは一緒です。普通のアルペジオなんだけど、音を工夫してて、80年代とかのイントロがシンセで始まるような曲だけど、現代風にはしてて。で、曲のリズムはタイトなんですけど、そこに邦ロックのリズムを融合させていくイメージというか。
──この曲、ベースも遠慮なしで、完全にファンクなロックのノリだよね。
ベースが♪ドゥンワ、ドゥンワ、ドゥンワ鳴ってるから普通に歌いづらいと思うんですけどね(笑)。
──ドラムも、もう少し湿り気のある空気に寄せるかなと思ったら、バキンとしたリバーブ感があって。
最近みんなやらない感じですよね。タイアップって音数が増えていくから、リバーブを入れられないんですよ。ドラムが濁るというか汚い音になるから。だけど、音数を減らしていけば入れられるんです。
──これはお見事です。こういうサウンド感をまさか今の日本の世の中でできるアーティストがいるとは(笑)。このサウンドが出すエネルギー感って独特だよね。
そうですね。あと、みんな結局、声を聴いてるんですよ。編曲も大事だし、メロディも大事だけど、みんな声からパーソナリティを読み取るんです。だから、声を編曲に使うという考え方にしていかないと、楽曲としてのパーソナリティが出てこない。日本は特にそうだけど、今、世界中がそうなってるなって。
──めちゃくちゃ均一化してるよね。芝居が全部一緒というか。
みんな同じ『西遊記』をやってて、その中の配役に過ぎないんですよね。でも、それって舞台でも歌舞伎でも同じことですよね。誰が演じるかによって変わるという。その中で何で判断するのかというと、歌舞伎だったら演技かもしれないし、舞台だったら演技に加えて顔なのかもしれない。音楽ではアーティストが顔を隠す時代になったから、声で判断するようになったんですよ。だから、声をちゃんと編曲に取り入れようと思って、自分の声をブラスのように扱ってビッグバンドにしていく。歌い出しで♪one more time〜って言った瞬間に、「あ、これVaundyのキモい曲シリーズだ」ってなる(笑)、聴いた瞬間にVaundyってわかるという。歌上手いやつらに負けないように歌を上手くするのはもちろんなんだけど、音楽では編曲も大事なんだよって言いたい。今、音楽業界そのものにパーソナリティの力しかないから、音楽の力をもうちょっと出さないとなと思ってます。
──なるほど。
だから、アレンジの中に、今までよりもっと僕がいるんです。みんながフォーカスしてこなかったところにフォーカスしていかないとこれから生き残れないから。今までもそのつもりだったから、曲があんなにコロコロ変わって、みんな「Vaundy、次どんな曲が出てくるのかわかんない」みたいに錯乱してるんですけど(笑)。僕は問題提起しないと前に進めないので、その思想からより変な楽曲になっていくという。
──Vaundyの場合、「じゃあ何をやればいいんだろう?」っていうのが、楽曲に落とし込まれてて、この“再会”は、その濃度が高い曲で。だからこそ、細かいアンサンブルとかアレンジにもその考え方が出てると思うし。あと、A・Bメロと、サビと、間奏、全部がまったく違うわけじゃない?
そうですね。ポップスはみんなそういうふうになってきてるし、構成が多すぎる曲もいっぱいあるし。でも、そこから減らしていくと結局A・B・C・サビになるんですよ。じゃあその中で変なことをすればいいかってなった延長に今いるんです。やれることは結構やられてるから、俺を拡張する──「Vaundyって何をする人なの?」をデカくしていく他に音楽を広げることはできなくて。
──それがポップ音楽としてこれだけの人に共有されて流通してるのはすごくデカいことだと思う。
「また変な曲出してるよ、でもなんかちょっと気持ちいいんだよな」の「ちょっと気持ちいい」をちゃんと大衆の前でやれるようになったのは、「Vaundy、偉いな」って自分でも思う(笑)。
