にじさんじ所属のVTuberとして多くの支持を受ける加賀美ハヤトは、無類の音楽好きにして、嗜好する音楽ジャンルの幅広さはよく知られるところ。そして生来の声質の良さを活かしての歌唱も評価が高く、剣持刀也、不破湊、甲斐田晴と組んだROF-MAOでも、その芯の強いハリのある歌声を披露している。そんな加賀美ハヤトがついにソロとして初めてのアルバム作品『ULTIMATE CITY』をリリース。多彩なコンポーザーを招いての、七曲七様の楽曲が並ぶミニアルバムだ。加賀美ならではのミクスチャーロック、ラウドミュージックから、新たな魅力を放つエモ、ダンスポップ、そしてスタジアムロック的なスケール感を放つ曲まで、どの曲も単曲リリースできるほどの充実度を誇る。初のソロアルバムの制作を終えて「自分としては経験値がひとつ上がった感じ」と言っていたが、加賀美ハヤトのシンガーとしてのスキルを改めて実感する1作となった。今回は、そんな加賀美の音楽的なルーツから今作の制作背景まで、じっくりと語ってもらう。
インタビュー=杉浦美恵
──加賀美さんといえば、リスナーとしても嗜好する音楽の幅がとても広いイメージがありますが、加賀美さんが音楽を好きになったきっかけって、どんなことだったんでしょう?ラップやシンガロングっぽい雰囲気のある曲が好きなのは、もしかしたら“Fish Fight!”が自分の根っこにあるからかも
本当に最初の最初、「この曲いいな」と明確に思ったのは野猿の“Fish Fight!”かもしれないです。明確に気持ちが「アガった!」と感じたといいますか。今思うと、あの曲ってちょっとミクスチャーっぽいんです。それがある種のルーツというか。ラップやシンガロングっぽい雰囲気のある曲が好きなのは、もしかしたら“Fish Fight!”が自分の根っこにずっとあるからかも。
──バンドサウンド的なものへの目覚めというと?
それで言うと、やっぱりBUMP OF CHICKENですね。中学生の頃、友達に“ラフ・メイカー”とか“グロリアスレボリューション”を聴かせてもらって、それですぐ好きになって。初めて自分のお金で買ったアルバムが『ユグドラシル』なんです。オープニングの“asgard”から“オンリーロンリーグローリー”に広がっていって、かと思えば“乗車権”や“embrace”では焦燥感や暗さを感じさせたり……そして“fire sign”なんかは、それらすべてを薪にしてしまおうみたいなエネルギーもあって。
──そこを入り口にしてどんどんバンドサウンドやロックを?
そこからは、ASIAN KUNG-FU GENERATION、RADWIMPS、そして高校時代はより過激な音楽を聴く自分でありたいと思うようになり(笑)、DIR EN GREYだったり、マキシマム ザ ホルモンだったり……そうやって好んで聴くようになると、どんどん掘っていきたくなるじゃないですか。DIR EN GREYから黒夢にとか、マキシマム ザ ホルモンからシステム・オブ・ア・ダウンにとか、ルーツをたどっていく面白さに気づいたんですよね。そういうところからラウドミュージックのルーツ掘りが楽しくなっていきました。で、その頃にアルバイト先の先輩からSEX MACHINEGUNSを教えてもらって、すごく好きになって。“みかんのうた”って面白い歌というより、自分は「かっこいい音楽」だと思えたんですよね。それで、これがメロスピ(メロディックスピードメタル)かと知って──そこからラプソディー・オブ・ファイア(イタリアのシンフォニックメタルバンド)とか、ドラゴンフォース(イギリスのパワーメタルバンド)とか、どんどん掘っていきました。そういう音楽をかっこいいと思えたことの根っこには、原体験としての“Fish Fight!”があったんですよね、きっと。
──おお。そこがつながるんですね。「歌う」ということに目覚めたのはどんなタイミングでしたか?
実は父が音楽好きで。歌、うまいんですよ。それで初めてカラオケに連れていってもらったのが小学1年か2年の頃。当時はアニソンを歌ったりしてましたけど、その頃はただ楽しいというだけで。で、高校に入って軽音部を見学したときに、部長がアジカンの“リライト”を歌っていたんです。決してうまいわけじゃないけど、なんとなくソウル(魂)を感じたんですよね。と同時に、自分も近いことができるのではないかと思って……そこからですかね、なんとなくバンドをやること自体への憧れができたのは。
──VTuberとしての初回配信時(2019年7月)にはすでに、“WITHIN”という楽曲を披露していたわけですが、今回のミニアルバムリリースまでには少し時間がありました。待っていたファンも多かったと思います。デモをもらった段階でちょっと泣きました。THE BACK HORNが自分のもとにやってきたって思えて
VTuberとしてデビューしてからはすごく奔放にやらせてもらっていて、それこそライブのオファーもいただけばそれに応えてやっていて。スタンスとして、ずっと「誘われればやります」っていうタイプだったんですよね。でも、「アルバム制作とかもやってみてもいいのかなあ」とは思ってたんです。で、ある日スタッフにそんな話をしたら、逆に「提案してよかったんですか?」って言われて。誘っていいのかな?って思われてたみたいです。「いや、全然いいですけど!」みたいな(笑)。
──ROF-MAOの活動もありましたしね。忙しいだろうと思われていたと。
そこもあったんでしょうね。これ以上(やらせて)いいのかな?みたいな気遣いがあったのかも(笑)。
──今作はこれまでにリリースした曲をパッケージするのではなく、すべて新曲でのミニアルバム。これは最初から構想していたことですか?
そうですね。単純にいろいろやってみたかったというのが一番大きかったんですが、全部新曲でと考えたのは、それこそBUMP OF CHICKENにルーツがあるので、アルバムを作るのであれば、もちろん一からじゃないか?みたいな感じだったかもしれないです。
──七曲七様の楽曲が揃いました。コンポーザーはどのように選定していったんですか?
まずはスタッフさんが「贅沢言ってみてください」と言ってくれて(笑)。じゃあお言葉に甘えて、ということで、お願いしたいアーティストのお名前を挙げさせていただきました。
──結果として、全曲シングルリリースできるくらいの濃いものができあがったなあと思います。まず“デュオバース”は菅波栄純(THE BACK HORN/G、eijun)さんの提供曲。とてもエモーショナルなギターサウンドとメロディに引き込まれる曲です。
久々に、デモをもらった段階で……ちょっと泣きました。THE BACK HORNが自分のもとにやってきたって思えて。THE BACK HORNも昔から大好きなんですよ。山田将司(Vo)さんのボーカルのキャラクターの濃さって忘れ難いものがあって、ボーカルスタイルにもかなり影響を受けています。
──栄純(eijun)さんはコンポーザーとしてとても多彩な曲を作られる方ですが、この楽曲はTHE BACK HORNのイメージも強いですよね。
そうなんです。THE BACK HORNの曲をリファレンスに挙げさせていただいたのもあるんですけど、すごく嬉しかったです。最初、デモの段階では1コーラスが終わったあとにちょっと複雑な展開がくる感じだったんです。それもすごく素敵だったんですけど、この曲のAメロがとにかく大好きだったので、それが1回だけっていうのがすごくもったいなくて、「ここはもう一度Aメロに戻りたいです」とわがままを言いました。THE BACK HORNの“コバルトブルー”の2Aとか“初めての呼吸で”の2Aとか、めちゃくちゃ好きなんですよ。
──歌詞もすごく突き刺さりました。《やさしいあなたがどうして傷だらけなんだろう》と。
もう、ほんとによくぞという感じでしたね。自分という人間に曲を書くときに、その言葉を選んでくれたことがすごく嬉しくて。自分がこの言葉をもらって嬉しかったということは、この言葉を必要とする人が他にもいるはずで。だから、その人たちに届けばいいなと思いました。