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    今週の一枚 フライング・ロータス『ユーアー・デッド』

    今週の一枚 フライング・ロータス『ユーアー・デッド』

    フライング・ロータス
    『ユーアー・デッド』
    発売中


    死を、新しい生の始まりとして描く。
    そのエネルギーと創造力の総量が凄い。

    彼の叔父がジョン・コルトレーンであるということからの勝手な連想なのかもしれないが、
    かつてのモダン・ジャズのあの強烈なアドリブを生み出しドライブさせていた黒人プレイヤーたちの衝動とエネルギーは
    「死を、新しい生の始まり」として描く、
    つまり「もう一つの生を創出する」というとてつもない根源的なエネルギーにほかならなかったのではないか。
    あの人達は生きながらとっくに死んでいて、そして音楽の中に新たな生を獲得していた。

    だとすると、このアルバムは、その営為の現代における継承、である。

    フライング・ロータス自身もこう語っている。
    「このアルバムは、終わりをテーマにしているわけじゃない。これは次なる体験に向けたお祝いなんだ。”なあ、お前は死んじまったんだよ……”ってんじゃなくてさ、”よう、お前は死んでるんだぜ!”って意味なんだよ」

    まさに「もう一つの生」のような壮絶な音楽。
    現実に与えられた生の中では制限されていたエネルギー、スピード、感覚が解き放たれて一気に噴出するような体験。
    個別の音は自由で、音と音との関係性は完璧で、どんな瞬間にも喜びがあり、ビートの連続/断続にすべてが委ねられている。
    そこに自分はいないが、そのエネルギーの総体が自分である、というような「もう一つの生」。
    フライング・ロータスは、表現としての音楽ではなく、「生」の創出としての音楽という桁外れなことをこのアルバムでやってのけた。

    50、60年代ジャズのアドリブの思想、80年代ヒップホップのサンプリング&ループの時間概念、そして00年代以降の音楽におけるポストモダニズム、
    それらを昇華して肯定的でエネルギーに満ちた巨大な音楽として成立させたのがこの作品だ。
    山崎洋一郎の「総編集長日記」の最新記事
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